Piece25



「そうだけど……もしかして名前……」
「長くてちょっと」
 覚えようと努めはしたが、会うごとに苛立ちの方が勝って忘れてしまったというのが本音である。ロマは自分のことをかなり鷹揚な人間だと評価していたが、彼を前にするとその評価を改める必要性にかられるのだった。
 男は困ったように笑って、改めて名乗った。
「タウザーだよ。タウザー=トピアーリウス。……覚えてくれると嬉しいなあ」
「……よく、ギルと知り合いになれましたね」
 あの短気とタウザーの馬が合うとは思えない。入室した先で眠るギレイオを見ると、その思いはますます強くなるのだった。今は静かなものだが、回復すればいつもの調子を取り戻すだろう──そうあってほしいという願いを込めて、ロマは点滴を替える。
 入ったものの、部屋の隅で様子を窺うだけのタウザーは「そうだね」と苦笑した。
「普通に会っていたら、多分、無理だったかな」
「でも子供の時に会っていたんでしょう」
 タウザーから経緯を聞いたロマは、決して仲良くはなれないだろうがと心の中で注釈をつけた。案の定、タウザーは否定するでもなく笑ってごまかす。
「会っただけと言ったほうが正しいかもしれないけど……今回はちゃんと知り合いになれたと思うよ」
「……仲介役の腕ってやつですね」
 操舵室で指揮を執っている男のことを思い出し、確かに彼なら出来るだろうと思いながら答える。
「ラオコガさんなら無理矢理にでも会わせそうな気がしますね」
「まあ、そうしてくれって俺が頼み込んだんだけど……」
「賢明じゃないですか? でなければ門前払いですって」
「……辛辣だなあ……」
 言われ慣れているようで、案外に打たれ強い。この強さはさすがに神殿騎士団と言ったところで、肩書きが伊達ではないと思わされる貴重な瞬間でもある。もっとも、彼が騎士団たる所以はもう一つのところにあるのだが。
 そのことに思い至り、ロマはタウザーに問うた。
「ギルが目を覚ましたら、話すんですよね。自分のこと」
「うん。今度は最初から、ちゃんと話すよ」
 ロマは点滴がちゃんと規則通りに落ちているかを確かめる。
「とりあえず順調に回復してはいるみたいなので、もう何日かの間には目を覚ますと思いますよ」
「ありがとう。ところで彼の目は大丈夫?」
「ああ……」
 ロマは閉ざされた左目を見つめた。ワイズマンの元で治療を受けていた時、魔法を抑えるためにと付けさせられていた眼帯は外したのか外れたのか、ギレイオの顔にはなかった。しかし、魔法はすっかり大人しくなり、変異の動きも見られない。静かなものだった。

- 404 -

[*前] | [次#]

[しおりを挟む]
[表紙へ]




0.お品書きへ
9.サイトトップへ

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -