Piece22



 穏やかな日で、家畜たちも草をはむのに一生懸命のようだった。山羊の中に何頭か羊が混じる混成部隊で喧嘩も少ない。彼らがもくもくと食事している風景を眺めていると、心が凪いでいく。ついでに微動だにしないものだから眠くなってもくるのだが、その度に遠くで聞こえる子供たちの声がギレイオを起こした。
 仕事でも何でも遊びにしてしまうのが子供である。それが人数が揃えば立派に楽しめるものになるものだ。家畜の周りで力比べを始めたようで、時折大きな歓声があがっていた。
 ぼんやりと見つめるギレイオは、脇腹に押し付けられるものを感じ、そちらへ視線を落とす。犬が「遊び相手ならわたしが」とでも言うかのように、鼻を押し付けて主張しているところだった。途端におかしくなったギレイオは立ち上がり、手近な所に落ちていた枝を使って力比べを始めた。片方を犬にくわえさせ、もう片方をギレイオが持って互いに引っ張り合うのである。単純な遊びだが犬にとっては楽しいようで、対するギレイオも声をあげて笑えるのはこういう時ぐらいだった。裏表のない動物はギレイオにとっては大事な友人なのである。
 ウィリカも手間のかからない仕事であるからと、息子のさぼりを遠くから見守るに留めた。同年代の子供たちが邪推なしには近寄らないことは、ウィリカもよく知っている。心から笑える時には手を出さず、そのままにしておきたかった。その笑顔を眺めていたい、というウィリカの願望もあった。
 山羊たちが草を食べ終えて帰ろうとした時、村の方から走ってくる人影があった。遠目の効くウィリカはそれがダルカシュの中でも懇意にしてくれている男の一人だとわかり、そんな彼が血相を変えて走ってくるのだから一瞬にして体を強張らせる。
 犬と遊んでいたギレイオは動きを止め、母親の元へ一目散に駆け寄る男を見送った。通り過ぎる瞬間にギレイオを見つめた目がどうにも気にかかり、なおもじゃれようとする犬をなだめて二人の様子を注視する。
 何故だか、鼓動が早鐘を打った。遠くで遊んでいた子供たちもこちらを窺っているが、そんな彼らに向かって大人たちが戻るように声をかけている。三々五々、家畜と共に戻っていく彼らを見送った後に母親の方へ視線を戻すと、ウィリカは今までに見たことがないほど真っ青な顔になっていた。
 ともすれば、そのまま倒れそうなほどな顔の白さは遠目でもよくわかり、駆け寄ろうとしたギレイオの足を止める。嫌な予感がギレイオの足を縛っていた。
 二、三、言葉を交わした男はその役目をウィリカと交代し、役目から解放されたウィリカは駆け足でギレイオの元へ近づく。そして乱暴にその手を取ると、何も言わずに家へと走った。
「……」
 ギレイオはただ、無言で見上げることしか出来なかった。
 家の周りには人だかりが出来ており、戻った二人を気遣わしげに見る目が肌へと突き刺さる。その外側では大人たちが慌ただしく動いているところで、「急げ」や「車は」などと叫んでいるのが聞こえた。
 まるで薄氷の上を歩いているようにウィリカは玄関まで進み、扉を開けた。途端、中の空気が全てウィリカに向かって集中し、鞭打たれたようにウィリカはその場に立ち尽くす。倒れまいとするかのようにギレイオの手を握りしめ、しかし、ギレイオはそれよりも奥で泣き崩れるホルトの方へ気が向いていた。

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