Piece15



 サムナはわずかに視線を下に向けた。
「……お前と俺を無事に生かすための方法だったんじゃないかってことだ」
 ギレイオはその事を口にするのが恥ずべきことのように、顔を背けて言った。
 そういう思惑があったことに気づかず、暢気に暮らしていた一方で、一人の男が死んでいたということは、それなりに自分のこれまでの生活を振り返らせるきっかけにはなるものだ。そして振り返ってみた結果、死んでまで果たした思いに胸を張れる生き方をしたかと思えば、ギレイオはそうではないと言えた。
 「あの時」から、サムナに会った時から、ソランに会った時から、ギレイオの足は一歩も前には進んでいない。足りない頭でただ思考を弄ぶばかりで、その中に沈んでいくことを良しとしていた。
 足はまだ故郷の──あの家から、一歩も出てはいない。
 それを認めようとしていることが、ギレイオは腹立たしかった。
 ギレイオは腹立ちまぎれに言う。
「……死んでまでやることかよ」
 サムナは視線を上げて、相方を見た。
 それから口を開こうとしたが、やめた。喉の奥にまで出かかっていた言葉を飲み込み、新たに言葉を装う。
「……そうするしかなかったんだろう」
 ギレイオはちらりとサムナを見てから、視線を外して溜め息をつく。
 サムナは「それでも、おれたちは生きている」と言いたかった。だが、ギレイオにそれは言えない。
 生き急いでいると称したゴラティアスの言が、不意にギレイオに重なって見えた所為だった。



 翌朝、何事もなく朝は訪れ、何事もなく街は一日の始まりを迎えた。
 前日の出来事にしこりを覚えないわけでもないが、ラオコガたちとの交渉は一応はまとまってしまったのである。死んでいようがいまいが、その詳細がわかればそれでいい、という結論をギレイオたちは自分らにこじつけ、無理矢理納得させた。そうでもしなければ、言いようのない疲労感が体をベッドに押し付けてしまいそうだった。
 それほどに疲労を極めていたことに、ギレイオは自分のことながら驚いていた。ソランの足取りを追った強行軍の反動がこんな形で出るとは思わない。こんな時にエインスたちに強襲されては、ひとたまりもないという実感はあった。
 何かを知るたびに、振り回されている暇はない。事は迅速に、的確に対応して進め、収める必要があった。

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