Piece15



「おれは、ないと思う」
 ギレイオはサムナの静かな物言いに、初めてまともに聞く耳を持った。
「確率の計算か何かか」
「それもあるが。だが、一番は彼のした事だろう」
「酔狂が来て引きこもって、久しぶりに外に出て戻ってきたら消えたとかいうふざけた事か?」
 悪意をたっぷり込めた概要には間違いがない。なんだかんだと言いながら、それなりに話はギレイオの中で整頓されていたようだから、何ともおかしかった。
「語弊のある言い方だと思うが、そういうことだろう。外に出た、というのは、おれたちに会いに来た時じゃないかとおれは思う」
 ギレイオは腕を組む。
「……時期的にはそんなところだろうが。でも、そんなショックを受けるほど、あいつにはひどいことした覚えもねえけど」
 では既に経験済みの相手もいるということか、とサムナは言葉の内容を汲み取って考えたが、今はそれについて言及する場ではない。第一、ギレイオなら珍しいことではなかった。
「お前の記憶は確かだ。おれの記憶にもない。ただ話し、交渉し、魔晶石の一部を渡しただけだ。それ以外のこともあったようだが、少なくとも、人の何かを損なうような行為はしていない」
 サムナは自身の損なわれた部分には触れない。何が失われたかという話は知っているものの、それを知ったところで、サムナにはどうするべくもない。だが、損失の意図がソランの消失に繋がっているのではないかという気はしていた。
「彼の行ったことはとても意味のある行為だったのだろう。少なくとも彼にとっては、人生の全てをかけるほどに。だから、それを果たした後に残るものはあってはならない。その中にソラン自身も含まれていたのではないかと思う」
 ギレイオは呆れたような目でサムナを見やる。
「秘密は墓場まで持ってくってか? 俺らに会って、魔晶石を回収して、お前の機能をちょっといじったことが、そんな大層なことか?」
「おれには実感がないから何とも言えないが。そうなった事をお前がどう思うかじゃないだろうか」
「むかつく」
 荒々しい動作で椅子に腰かけるが、小さく息を吐いた後にギレイオが続けた言葉は、その動作とは反対の性質を持っていた。
「……だが、何かしらの考えはあったんだろうなとは思う。ヤンケとも話したが、お前の機能の減退は、どちらかと言えば良い方向での思惑が絡んでいたんじゃないかってな」
「良い方向……」

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