Piece14



 笑い声の反響する方を見つめ、アインはラオコガを見、相変わらず要領を得ない様子の余所者二人を見て、顔を赤くしながら倒した椅子を起こす。堪忍袋の緒の限界を迎えるには、少々タイミングが悪すぎたようだった。それでも自分の怒りは間違っていないと思えるため、煮え切らない思いを刺すような視線に託してラオコガを睨み付ける。
「……そんな睨まなくても」
「ラオコガが何も言ってくれないからでしょう! 私一人だけ空回りして」
「お前が人食いの話を本気にしてるとは思わなかったんだよ」
 なだめるようにラオコガは優しく言うが、アインはつん、と顔を背けた。
「本当のことじゃない。嘘は言ってないもの」
「……まあそうだが」
「──…それで置いてけぼりの俺らはどうしたらいいですかね」
 途中からまるっきり蚊帳の外にいたギレイオは、のろのろとした口調で問う。それに対してラオコガがあまり申し訳なさそうには思えない態度で「すまん」と手を挙げ、ギレイオらに向き直った。どうやらこの二人の関係はこれが正しい図のようで、今に始まったことではないらしい。謝罪もどこかおざなりで「今さら」という感が滲み出ていたが、ギレイオもいちいち言及する気が起きなくなっていた。
「人食いっていうのは本当なんだ」
「……そこ、肯定するところなのか」
 うんざりした表情でギレイオが言うと、ラオコガが不思議そうに首を傾げた。
「するさ。本当のことだからな」
 ギレイオは瞬間的に表情を硬くする。
「どういうことだ」
「あの家に立ち入った者は二度と出て来ない。だから人食いの家なんて呼ばれている」
 ラオコガは太い腕を組んだ。
「昔からそういう家なんだ。俺が小さい時からそんな噂の絶えない場所だったし、実際に何人か消えている」
「それを放っておいているのか?」
「ギルドや神殿騎士団に言ったら、最初のうちは熱心に来てくれたけどな。まあ、身内の犠牲が止まらなければ、さすがに及び腰になるのをこっちが非難することは出来ないだろう。家にさえ入らなければ何も起こらないんだし」
「……暢気だなー……」
 ギレイオの呆れたような物言いに、ラオコガは苦笑した。
「だって仕方がない。何年前だったか、ずっと空き家だったその家に住人がついた途端、ぴたっと人食いはなくなったんだからな。住み着く人間がいれば消える程度のものだったと思えば、いなくなった人には申し訳ないが、そんなものかという気もしてくるさ」
「……そんな酔狂な人間がいたのか」
 ギレイオの声音が変わったことに、サムナは気づく。
 対するラオコガは気づかなかったようで、笑って頷き返した。
「何をしている人なのかまでは知らないが。まあ、頭のいい人だったし、何かしらの対処をしたんじゃないのかという話になった」

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