Piece14



 ギレイオは相方を振り返り、何でもないように言う。
「どこの街にもいるような馬鹿共に、ここで会おうが余所で会おうが一緒だろ。それにこっちは対価を要求出来る。だよな?」
 当然、といった顔で言われ、ラオコガは苦笑しながら頷いた。
「お前たち二人の本来の目的を阻害して頼んでいるんだ。それぐらいはやるよ」
「人探しと言ってるけど、それはあの家の人のこと?」
 ようやく話の隙を見つけたとばかりに、ギレイオらを巻き込んだ張本人が問うた。半ば強引に引き込んだという責任は感じているらしく、尋ねてくる表情にも真剣さが滲む。だが、アインをそんな表情にさせているのは、ただ責任感からだけ来るものではないようだと、先刻彼女が言いさして遮られた言葉をギレイオは思い出していた。
「そうだけど、お前、さっきからあの家に関して含みがあるような言い方するよな」
 そりゃまあ、と曖昧に答えて、アインは視線を下に迷わせた。その隠す素振りがギレイオには「理解できないもの」として、不愉快なものに映る。
「言いたいことがあるなら言えよ。忠告だろうが何だろうが、そうやってちまちま隠される方が迷惑だ。それが親切のつもりなら止めた方がいいぜ」
「親切のつもりなんかじゃないわよ」
 ギレイオの言葉に半ば被さるようにして、アインは間髪入れずに言い放った。それで勢いがついて迷いが失せてしまったのか、アインはふん、と息を吐くと、挑むような目つきでギレイオを見据える。
「あのね、親切でも何でもないから、これは。ただ、私がこんなことを言うことで頭のおかしい子とか思われるのが嫌なだけだから」
 言い訳じみた前置きにギレイオは適当に手を振って、話の先を促す。その小馬鹿にしたような態度にアインはますます表情を険しくしたが、隣で静かに待つサムナやラオコガの存在を思い出し、怒りを鎮めるように大きく息を吐く。
「あの家は人食いの家なのよ」
 しん、と静まり返った場にアインの言葉がぽつりと落とされた。アインとしてはそれなりの決心を込めて落とした言葉であったにも関わらず、その言葉を拾う者は誰一人としておらず、数秒置いてギレイオが「ほう」と、相槌とも賛同とも取れない微妙な返事を寄越しただけだった。
 これにはアインも堪忍袋の緒を保つことが出来なかった。目の前の余所者二人だけでなく、肝心のラオコガまでもが勝手に外野に立ったのである。こちらの決心などそ知らぬ顔で、援軍にも来ようとしない
 アインは荒々しい動作で立ち上がり、ぽかんとして見つめる男三人を見回した。
「言えって言われたから私は言ったんだけど!? それでその態度は何よ! さっきの言葉、まとめて返してあげましょうか!?」
 十代の少女に、大人三人がまとめて怒られている図など笑いものでしかない。アインの大声を聞きつけて、仕切りの影から覗き込んだ男たちが、忍び笑いをもらしていた。無骨な体を揺らして笑う姿は、いくら身を隠していてもわかるもので、ラオコガが気まずそうに手で払うと男たちは三々五々散っていく。ただし、押し殺していた笑いを大きなものい変えて遠ざかっていくのを耳にすれば、激昂しているとはいえ、さすがにアインも気がついた。

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