Piece14



「直接は聞かなかったのか? どんな奴だったのかも知らないのか?」
 矢継ぎ早にギレイオが質問を繰り出した途端、ラオコガは穏やかだった表情を消した。その沈黙を合図にして話し手の役を譲り受け、隣で黙って聞いていたアインが口を開く。
「……いつも家に籠って何かをしている人だった。時々、外に出て会えば話もするけど、特に仲良くすることもなかった。本人もそれを望んでここに来たわけではなかったようだから、そっとしとこうって話になったのよ」
 でも、という言葉をアインの口が形作るのをギレイオは注視した。
「ある日、珍しくどこかに遠出したと思ったら、帰ってきた途端、家に籠って出て来なくなったの。進んで交流する人ではなかったけど、買い物にも出てこないなんておかしいでしょう。それで、中でどうかなっているんじゃないかって噂になって、町の人間が様子を見に行ったの。……でも、家の中には誰もいなかった」
 ギレイオの中で膨らんでいた予感が破裂する。構わずに、アインは続けた。
「人どころか、家の中には何もなかった。前の住人が残したテーブルと椅子がある程度で、人がいたっていう跡すらなかったっていう話」
 アインは知らぬ間に詰めていた息を吐いた。
「それがあの家の最後の人食いになるの。皆、もうその一件で近づかなくなったし、基本的に無いものとして扱うようになったから、初めて来た人には大したことには見えないだろうけど」
「お前らの日常にすっかり騙されたってわけか」
 異質な物がそこにあることが「日常」となってしまえば、それは平坦に続く日常の中の一つと変わらなくなる。ギレイオたちがあの家の前にいても、誰も気にも留めなかったのは問題がなかったからではない。あるからこそ、見ないフリをすることを皆は選択したのだ。
 目を背ければ無いのと同じ、忘れてしまえば存在すらあやふやになる。ただし、ふとした瞬間に話題に上れば、それなりに人々の記憶を刺激するくらいには異質な物であることは確かなようだ、とアインたちの様子を見れば想像がついた。
 黙り込んで思考をまとめるギレイオへ、ラオコガは尋ねた。
「お前たちが探している人間というのは、消えたその人のことなのか?」
 ギレイオは逡巡し、言葉を選び選び答えた。
「……その話だけじゃわからん。あの家にいたかもしれないって、可能性で来ただけだからな」
「住人の名前は?」
 サムナが口を開いた。これにはラオコガがすぐに答える。
「ソラン。確か、ソラン=バイドという名前の男だ」
 ギレイオはわずかに眉をひそめた。
 これでは生死どころの話ではない。
 死んだという噂でさえ、現実を目の当たりにすれば、形を与えられているように見えた。



Piece14 終

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