Piece12



「あたしを襲ったって何も盗るもんはないよ! こんなババアまで襲ってさもしい奴だね!」
「てめえみたいなのは俺の範疇外だ、このくそババア!!」
「ああ耳が腐る! この家からとっとと出ていきな!」
「助けてやったのにそれか!?」
「誰も助けとくれなんて頼んでないよ! 勝手に助けて何をせびろうってんだい! ええ!?」
「せびるもくそも、こんなボロ家に住んでるババアにたかるほど落ちぶれちゃいねえよ! 守銭奴なめんな!!」
「その守銭奴様が何だってあたしを助けたんだい!? 下心でもなけりゃそんな物好きいるはずないさ!!」
「だから、あんたは俺の守備範囲の外だ!」
 眠っていた間の青白さはどこへやら、女は顔を真っ赤にして背中を壁にぴたりとつけ、髪を振り乱してまくしたてる。警戒心をむきだしにし、背中の毛を逆立てた猫のようだった。対するギレイオの方も、初対面とは思えない言いぐさだった。
 ここまで好き勝手言えるのも、いっそ清々しいほどである。同じ事を違う言葉を尽くして言い合えるのは一種の才能だろうが、これをずっと眺めている気にはなれない、とサムナは水瓶を床に置き、完全に血の上った相方の頭を手刀で叩く。
 怒声に罵声でやりあっていたギレイオは、その勢いのままサムナを振り返った。
「てめえが助けろっつったんだ! てめえで責任取りやがれ!」
「……お前も頭の回転が早いのか、性格が悪いのかどっちかにしないか」
 瞬間的に怒りの矛先をサムナへ切り替えることが出来たのはさすがとしか言えないが、ギレイオの言い分は完全なとばっちりである。
「お前も承諾してやったことだろう。とりあえず落ち着け。……あなたも」
 そう言いながら、サムナは女を見据える。
 新たな人物の登場に警戒を更に強めた女は、低い言葉で言い放った。
「落ち着けるもんかい。百歩譲って助けてくれたことには感謝してやるよ」
「ああ!?」
「……ギレイオ」
「でもね、どうしてここがわかった。ここは誰にも知られることのない場所だ。それにここに来てあんたらは平然としてる。ここに何があるかわかってるから、そんな身なりをしてるんだ。違うかい?」
 そんな、と女は二人の顔半分を覆った布を示した。
「得体の知れない奴らを信用する気にはなれないね。しかもここを知られたなら、ただで帰れると思われても困る」
「こんな所、俺だって吹聴する気にもならねえよ!」
「悪人面のガキが言ったところで更に信用出来ないね!」
「んだとコラ!?」
「やるかい!?」
「……だから落ち着けと」
「てめえはすっこんでろ!!」

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