Piece10



「頭が暇じゃなきゃ続かねえ。人が自分のためだけに使ってる頭の領域も研究に使ってるんだから、そりゃ人間性に不備が出てくるわな。変人ってのはどいつもこいつも、似たり寄ったりだよ」
「ゴルのことを言っているのか?」
「いや、世の中に溢れてる全ての変人に対する俺の考え」
「お前はまたそういう……」
「いいじゃねえか。平和で。普通よりも集中できるもんが多いのは幸せだよ」
 まるで、自分は違うとでも言いたげな口ぶりだった。訓練と言いつつ、ギレイオは一人でずっと思考を繰り返していたのではないかとさえサムナは思ったが、口にはしなかった。
 ギレイオの後ろを歩きながら、サムナはその足取りに不安がないことに安堵する。
「本当にもう大丈夫そうだな」
「ちんぴら相手なら余裕。“異形なる者”相手はしばらく、全部お前任せになるだろうけど、まあそこは前とあまり変わらねえか」
「目は?」
「前よりも視力が良くなった。たまに体の中のもん全部吐きたくなるくらい最悪になることもあるけどさ。前よりもいい」
 前よりも、という言葉にギレイオは重きを置いているようだった。押さえ込む力も増しているだろうに、その負担を買ってでもギレイオは自分の魔法を封じたがっている。
 媒体がなければ発動はしない魔法だが、なくても増悪を続けていき、しかも媒体がないがために増悪の度合いも図れないギレイオの魔法は正に病だとサムナは思った。病だから封じたいのはわかっても、その真意となるとまた別の顔を見せるのだろう、とここしばらくの出来事が物語る。
 サムナが黙っていると、ギレイオが微かに振り返った。
「お前は調子よさそうだな」
「……ああ。脇腹も元に戻った。腕もこのままいけば元に戻る。……おれはいつでも行ける」
「いつでもね」
 ギレイオは小さく笑う。
「じゃあ、今行くか」
 足を止め、ワイズマンたちの家の輪郭を遠くに見据える。
「……挨拶の一つぐらいはしていった方がいいんじゃないのか」
「俺がそんなことしたら、気味悪がって頭開いて調べようとするぜ、あいつら。それは勘弁」
「代金は」
「ロマのベッドの横」
 サムナは微かな苦笑をもらした。
「……ならもう、おれが言うことはない」
 うん、とギレイオは頷き、家に向けていた足を真横へ方向転換する。その先は周壁だ。そしてその先は、外である。
 段々と遠ざかる家を振り返っていると、ギレイオが問うた。
「まだ残りたかったか」
「……もう少し、話したいことはあった」
「別に死に別れるんじゃねえんだし、また来ればいいんだよ」
 そうだな、と言い、サムナは家から目を離す。ギレイオはその時、きっと嫌がるだろうなと思っていたが、ふと、思い出したことがあり、サムナは前を行く背中に声をかけた。
「ギレイオ」
「あ?」
「剣を置いてきてしまったから、途中で仕入れたい」
 ギレイオはしまったという顔になったが、すぐに溜め息を吐いて顔を前方に戻す。

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