Piece10



 全てを知ろうというのは傲慢だ。だから全てでなくともいい。自分の背中を預ける相棒を形作るものが何であるのかわかれば、ただ守りやすい。
 境界を越えようとすれば手を掴める、馬鹿な真似をすればたしなめることも出来る。自分の代わりに戦ってくれというギレイオの言を、本当の意味で理解出来る。
 サムナが共に旅をしているのは物ではなく、人間だ。
──聞かねばならない。
 ようやく、サムナは決意した。
 ワイズマンたちの家の位置を確認しながら森の中を歩くというのは、なかなか面白い作業だった。いつもは地図と記憶を頼りに動くものを、何かの規則に従って歩くことはほとんど経験がない。サムナは自分の位置を修正しつつ、少しずつ歩ける範囲を広げていくという単調な作業を散歩の目的にシフトさせていった。
 その時、緑とくすんだ茶色ばかりだった風景に、金色の輝きが翻るのを目の端でとらえ、サムナは足を止めた。遠くにちらりと見える輝きはサムナとは全く別の方向へと動いていたが、サムナが足を止めたのに気付いて動きを止め、方向転換する。
 その輝きを目にした瞬間から、サムナは全ての緊張を解いていた。
「……夢遊病という言葉を思い出した」
 木立ちの間を縫うようにして歩いてくるギレイオに対し、サムナは穏やかな口調で告げる。
 ギレイオはコートのポケットに手を突っ込んで、盛大に顔をしかめた。
「お前、俺がまだ寝ぼけてるとか言いたいのかよ」
「違う。森の中をふらふら歩いていれば自然とそう見える」
「これがふらふらとかぬかすなら、病気ん時は這って進んでやるよ」
 そう言って片足を軽く上げてみせる。訓練の成果か、これまでは片足で立つのにも苦労していたが、支柱となった足に弱さは見られない。強く地面を踏みしめる足は、サムナがよく知る状態へと戻っていたようだった。
 ギレイオは足を戻し、怪訝そうにサムナを見やる。
「そう言うお前こそ、何ふらついてんだよ。あいつらと話してるんじゃなかったのか」
「仕事の邪魔はしたくない。忙しそうだったから、外に出てきた」
「まー忙しいだろうなあ」
 ギレイオはサムナの横を通りすぎ、歩き出す。サムナもその後に続いた。
「二人でこそこそ研究してきたもんの完成形が目の前に出てきたんだし。一瞬で目も頭も覚めただろうさ」
「本当に二人だけでなのか? 他にもいるようなことをロマは言っていたが」
「俺の知る限りじゃロマみたいな奴が何人かはいたな。どう入れ替わってんのかは知らねえけど、徹頭徹尾、ワイズマンに付き合ってるのはロマだけだ」
「……よく続くものだ」

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