Piece1



 相方の忠告は右から左へ流し、ギレイオは行儀悪く椅子を揺らした。どうやら、サムナの忠言が彼に届く日は遠そうである。
 嘆息しつつ、それでも微かな反抗を混ぜて言い放つ。
「この前の、タイタニアでのは何だ」
「ありゃ場所が悪い。大体怖えよ、あそこ。魔力がないだけで、お前が悪いだの何だの」
「……そうだな」
 これには溜め息と共に頷かざるを得ない。自身の行いを場所の所為にする主張が正しいかどうかはともかく、サムナは「怖い」という意見には賛成だった。
 このタイタニア大陸には、分けて五つの主要都市がある。北のアクアポート、東のガイア、西のグランドヒル、南のエデン、そして中央のタイタニア。各地を転々としているギレイオ達が少し前までいたのは、その中でも中枢にあたるタイタニアだ。それぞれが特色の強い街だが、彼らがそこで感じたのは「差別」だった。
 この世界の人間は、そのほとんどが魔力が有する。威力の差はあれど、必ずと言っていいほど魔力を持って生まれるものだった。
 ところが、稀に先天的に魔力を持たない人間もいた。それを先天性魔力欠乏症と称し、世界的に差別の風潮が強いのだが、特にタイタニアではその色合いを濃くする。大陸の中枢を担うという自尊心からか、それとも街に住む人間そのものが街をそのように変えたのか、タイタニアで欠乏症の人間が生きていくのは至難の業とされた。
 全てが全てを差別するわけではないにしろ、街全体を包む雰囲気をギレイオは好きになれなかった。滞在中、そんな相方の様子を見ていたサムナにもそれぐらいはわかる。
 声を低くしたサムナの前で椅子を揺らすのを止め、ギレイオはテーブルに身を乗り出した。
「ここはいい。飯は美味いし、賑やかだし」
「港街だからな」
 ギレイオから仕事の報告を受ける待ち合わせの場所として、二人は食堂を選んでいた。ここならやましい話をしてもばれない、という不純な動機を持って入ったことを、申し訳なく思うほど真っ当な店である。

- 4 -

[*前] | [次#]

[しおりを挟む]
[表紙へ]




0.お品書きへ
9.サイトトップへ

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -