Piece1
ほとんど脅迫である。
しかし、ギレイオの指摘も、もっともであった。二人のいる部屋は、古ぼけたバイクに不釣合いなほど美しい。白い壁に金細工、見た目にも高級とわかる調度品の数々は部屋に訪れるまでにも多く目にしていた。とどめとばかりに、毛足の長い赤絨毯を目にすれば、誰だって金持ちと言って疑わない。
加えて、この部屋そのものがバイクだけにあてがった趣味の部屋だというのだから、これで一般人だと訴えられても信憑性は薄い。いささか成金趣味にも思えるが、それはこの際関係ないだろう。
判断材料は充分、しかし、男は力一杯首を振った。
「ない! ないぞ!」
「ああそう。なら、そいつが壊れるのを黙って見てるんだな」
「直すのが仕事だろう!」
男は至極もっともなことを言ったつもりだが、ギレイオには通じなかったようである。
「知るか。俺にだって客を選ぶ権利はある」
自身の常識を披露し、くるりと踵を返す。出すもの出さなきゃ、という言葉を背中は雄弁に語っていた。
さっさとした足さばきと、背後のバイクを天秤にかけて、男は声を張り上げる。
「ま、待て! どうすればいい!」
追いすがるように、手を上げる。
くるりと振り返ったギレイオの顔には笑顔──後日、男の語るところによると悪魔のような笑みだったという──が、はりついていた。
「金、あるんだろ?」
+++++
笑いが止まらないといった様子で、ギレイオは無表情の相方に語り続けた。
「あの男、真っ青になって金庫に行ったよ」
「いくら、ふっかけた」
「あ? こんくらい」
指を四本立てて示す。
「四千? 珍しいな」
「ゼロがたらねえよ。あと三つ」
「……ふっかけたな」
「だってアンティークのバイクだぞ。安い安い」
「たかだか部品一個の交換だけで」
「安いだろ。その部品だって俺が作らなきゃ」
はあ、と溜め息をつく相方にギレイオは詰め寄った。
「何だ、その態度」
「また警吏に追いかけられるのは御免だ」
「サムナ……」
眉をひそめるギレイオに、少しは自分の言葉が届いたかと淡い希望を抱いたサムナだが、次の一言であっけなく崩れ去った。
「……んなヘマするわけねえだろ」
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