063.かごめかごめ(1)


 彼女とは割と、仲良くしていたと思う。一般的な言葉で表すなら幼馴染という間柄だが、学都でも有名なリドゥンとヨルドのように、穏やかな関係は途中から途切れてしまった。

 幼少の頃はかなり面倒を見ていた。大人しすぎて、自分の気持ちを簡単に押し殺してしまう彼女の姿がやけに目につき、そして守ってやりたいという庇護欲をかきたてられた。彼女をいじめていた近所の男の子と喧嘩したこともあったし、野良犬から一緒になって逃げたこともある。

 当然、一緒に遊んだりもした。彼女の祖母から教えてもらった「かごめかごめ」という遊びは一番のお気に入りで、一日遊びまわった最後には必ずそれをやって別れた。

 周りから面倒見がいいと褒められるのは嬉しかったが、それ以上に、彼女からもらう「ありがとう」の言葉が一番嬉しかった。

 多分、今でも嬉しい。

 それが学都に入学した頃からだったか、彼女は自分を避けるようになった。理由を問うても逃げるばかり、挙句の果てには「寄らないで」とまで言われた。

「……何でだと思う」

 サジェインは机に突っ伏し、これまでの暖かな回想から現実に戻った。

 すり鉢状の講堂では他の生徒の会話が賑やかに飛び交うが、ここは静かなものである。サジェインの目の前で、イードが本を読みながら答えた。

「嫌われてるって、素直に考えなよ」

「嘘だろ……。何で」

「そうやって女の子の気持ちを人に聞くデリカシーのなさとか。喧嘩っ早いところとか」

「……」

「まだ聞きたい?」

「いい。へこむ」

 サジェインは大きく溜め息をついた。

 イードの言うことはどれも当たっていた。まともに会話が出来るのは彼女だけで、他の女性相手となると無愛想に拍車がかかるため、はっきり言って女生徒との相性はすこぶる悪い。おまけに血気盛んなところが災いして、これまで喧嘩騒ぎを起こすこと数回、謹慎を受けること数回、と、入学してからこっち、いらない肩書きばかりが増えている。

 決してサジェインから喧嘩を売ったわけではないのだが、売られれば買ってしまうのが彼の悪いところだった。

 学都に入学出来るだけの魔法のセンスはあるのに、というのが講師たちの合言葉である。サジェイン自身も、決して自分の力を過小評価しているわけではないが、自身の頭打ちをするような存在が同級にいるから気に食わない。

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