063.かごめかごめ(2)


 黒髪のそいつは今日も講堂の一番前に座って、周りの雑談など気にも留めない様子で本を読んでいる。イードが読むものよりもずっと分厚く、少なくともこの講堂にいる全員にはわからない内容の本だった。

 サジェインは勝手にライバル意識を燃やしていたが、彼はいつも「いい迷惑」という風に顔をしかめては、言葉もかけずに去っていく。人付き合いそのものが面倒なのかもしれないが、幼馴染のヨルドとは仲が良さそうだった。

「今度はリドゥンのこと?忙しない頭だなあ」

 イードがサジェインの視線の先を認めて、呆れたような声をあげた。

「そういえば、学都に入学してすぐに喧嘩してたよね」

「あれは、あいつが悪い」

「はいはい。このやり取りも何度目だかね」

「あんな混雑した場所で、これ見よがしに取り巻きはべらせて何が楽しいんだか。取り巻かれる人間が人間なら、そうする連中も連中だな。人の服汚しといて、謝りもしねえで笑うんだから」

「サジェインの服が汚れたんじゃないんだろ」

「おれの服なら別にどうでもいい。でもパロルの服だったから、余計に腹が立つんだ。未だにむかつくしな」

 イードは本を閉じ、サジェインを見る。

「前から気になってたんだけど、サジェインのそれって恋愛なの?それとも幼馴染の義務ってやつ?」

「は?」

 サジェインは体を起こし、友人の顔をまじまじと見返した。

「だからさ、何かあると自分はどうでもよくて、すぐパロル、パロルって。僕は慣れたからいいけど、傍から見ると彼氏か父親かっていうくらいの関わり方じゃん」

 幼馴染の例で言うと、とイードはリドゥンを指差した。

「あっちは義務とか恋愛は関係なさそうに見えるけどさ」

「じゃあ、何だよ」

「姉弟?」

「リドゥンが上?」

 そんな話をしているうちに、リドゥンは時計を確認すると、本を持って講堂を出て行った。

「違う、ヨルドが姉さん。で、リドゥンが弟。あの自己中っぷりは甘やかされた証拠だろ。現に、学都に入るまではヨルドが姉貴分だったって聞くし」

 相変わらずの情報通に、サジェインは返す言葉もない。加えて、イードは人を見る目に長けていた。

「でもサジェインのは何か違うよね」

「違うって……何が」

「執着の仕方?何て言うのかなあ。盲目的っていうか、犬っぽいっていうか、幼馴染の範疇を越えてるように見える。好きなの?」

「好きだけど、それがだから何だよ」

 イードは痛々しいものでも見るような目つきでサジェインを眺め、大きく息を吐いた。

「だから、恋愛対象として好きなのかっていうことだよ。……これはパロルでなくても呆れるな」

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