062.心拍数(2)


 新しい便箋を取り出して、パロルは決心を持って見つめた。

「今日、全部書いてしまいたいの。明日からは実習期間に入るし……そうなったら、多分もう伝えられないから」

「うーん……」

 ヨルドはそれでも心配そうに、ベッドに腰掛けて足をぶらつかせた。

「そこまでして伝えたい相手って、やっぱり聞いちゃ駄目?」

「駄目」

「ケチ」

「ヨルドもよく知ってる人よ」

「知ってたって、パロルが好きになりそうな人なんてピンとこないけどなあ」

「私はヨルドが好きになりそうな人なんて、ピンとこないけど」

 パロルが冗談めかして言うと、ヨルドは身を乗り出した。

「ええ?そう?」

「だから、そういうこと」

「うーん……まあ私もピンとこないけどさ。実習が終わったら、パロルは学都を卒業するの?」

 これ以上、会話の発展が見込めないと踏んだのか、ヨルドは話を変えた。この身軽さも、パロルが好きになれた一つである。

「どうだろう。そのまま働けそうなら、出て行くかも」

「勿体ないなあ。パロルなら頭いいし、試験さえ受ければすぐに七年生ぐらいなれると思うのに」

 七年生、と聞いてパロルの心拍数が跳ね上がった。途端に耳まで赤くなる。

「私なんか、無理よ」

 基本的に学都は九年制だが、飛び級を繰り返せば九年も在籍する必要はない。更に、過半数である五年生までのカリキュラムを受けた者は、その後の進路を自由に選択出来る。そのまま学都で勉学を続けるもよし、パロルのように五年生で学都を卒業し、仕事に就こうという者も少なくはなかった。

 実習期間というのはパロルのような者たちの実地研修のようなもので、期間を経て後に早めの卒業試験を受けて、社会に出るのである。その間は嵐のような忙しさで、今夜のように手紙一枚を書くのに苦心する猶予すら与えられないだろう。

 パロルは七年生の「変わり者」を思い浮かべて言った。

「リドゥンみたいに天才じゃないもの。ただ本が好きっていうだけで、彼のような天賦の才はないわ」

「リドゥンが天才?まあ頭がいいのは認めるけどさあ……」

 頬杖をつきながら、承服しかねるという顔つきで中空を睨みつける。ヨルドはリドゥンと幼馴染であり、学都内で唯一、面と向かってリドゥンを非難出来る人物だ。

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