062.心拍数(1)


──初めて見た時から好きでした。

 淡い若葉色の便箋へ丁寧に字を綴り、しかし、最後まで書き終えてぐしゃりと握りつぶした。どこにでも転がっているような言葉では、彼の興味を引くことは出来ない。机の隣に置いてあるゴミ箱からは、これまで握りつぶしてきた便箋の塊が溢れ、今、投げ入れた一つで雪崩が起きた。

 パロルは顔をしかめ、ゴミをまとめようと立ち上がった。すると、二段ベッドの上段から、同じ部屋のヨルドが顔を出す。

「まだ起きてんの?」

 学都へは自宅から通う者と、寮から通う者に二分された。概ね、寮では一部屋に二人ずつ割り当てられ、それは学年や成績など関係なくランダムに決められる。稀に、性格に難ありとされる生徒は一人で一部屋を使うことが出来るが、それは「変わり者」のレッテルを貼られるのと同じだった。

 パロルは男子寮のそんな「変わり者」に、手紙を書こうと深夜まで奮闘していた。

「いいよ、寝てて」

「でも明日早いんでしょ?パロルは朝弱いじゃん」

 ヨルドは大きな目に心配そうな色を滲ませる。

 自分でも気が小さいと思うパロルは、学都に入ることよりも、寮のルームメイトに大きな関心を寄せていた。やたら騒がしい人は駄目、お節介な人は駄目、派手な人は気持ちが萎縮する、高圧的な人は論外などなど──苦手とする人種がルームメイトになった時のことをとにかく心配して、入学試験に合格した時でさえ、寮のことで頭が一杯だった。

 両親は沢山友達が出来ると言って、そんなパロルを励ましたが、パロルは沢山の友達よりも大事なたった一人の友達がいればそれで良かった。その時の彼女にとっての「大事なたった一人の友達」は、本だったのである。

 そうして心配に心配を重ねていたルームメイトは、ヨルドだった。はっきり言って、彼女はパロルが苦手とする典型的な人種だが、ルームメイトとして初めて顔合わせした瞬間から、何故かヨルドとは仲良くなれそうな気がしていた。そして結果、二人は親友とも言えるほど仲良くなれたのである。

 二年上のパロルにも臆することなく、ヨルドはずけずけと物を言う。そんな言い方を初めて楽しいと思えたのが、ヨルドだった。

 パロルが朝が弱いのを知って、ヨルドはいつも目覚まし係をしてくれる。いつもなら嬉しいが、今夜はそうはいかない。

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