061.虹色キャンディー(3)


「馬鹿に馬鹿って言っただけ。お前だって、自分が馬鹿だってわかってんのに、なんで俺の言葉で怒るかな」

「怒ってないよ」

「怒ってるって」

「怒ってないってば!頭がいいからって、何言ってもいいってことじゃないんだからね!」

 ヨルドは椅子を倒しながら立ち上がり、黙々と帰る支度をするリドゥンに食ってかかった。課題が出来ないことも、リドゥンの言い草にも腹が立ったが、なによりもヨルドが腹立たしく思うのは、それが全て真実だとしか言えない自分自身にだった。

「そうだよ!どーせ私なんか馬鹿だから、リドゥンの言いたい事なんかちっともわかんない!いつもは考えてる事ぐらいわかるのに、今は全然わかんない!馬鹿を馬鹿にしてると、気持ちがいいんだろうね!」

 これらの言葉を一息にして言ってのけるヨルドを、すっかり支度を終えたリドゥンは、本棚に寄りかかりながら見ていた。

 ヨルドは息を切らせながら、その視線を睨んで返す。

「なんだよ!」

「……そこだよなあ、お前の弱点」

 気の抜けた声には、すっかり悪意が失せていた。

「すっきりしたか?」

 肩で息をしつつ、ヨルドはぽかんとしてリドゥンを見る。そこへ、リドゥンは何の前触れもなしに、先刻まで読んでいた本をヨルドに投げて寄越した。

「うわっ」

 突然のことに避ける間もなく、思わず手で顔を覆うと、本がぶつかる衝撃とは違った、ふわりとした感触が手に触れた。おそるおそる目を開いてみれば、ヨルドの目の前で本が浮いている。考えなくとも、リドゥンの魔法だとわかった。

 しかし、浮いている本を手に取ろうとした瞬間、本は勢いを取り戻してヨルドの顔面に衝突した。

「……リドゥン!!」

 衝突した勢いに負けて後ろに倒れたヨルドを、リドゥンは哀れむような目で見た。

「すまんすまん。だってお前、とろいんだもん。俺の魔法はせっかちだから、あんまりとろいと機嫌損ねるんだよ」

「わざとだろ!」

「そう言えるってことは、少しは頭がすっきりしたんだな」

「…………は?」

「昔から頭がパンクすると、ただでさえ動きのとろい頭が更にとろくなるんだよ、お前は。それで気付かずに堂々巡りしてること、知らんだろ」

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