061.虹色キャンディー(2)


 ヨルドは目の前に開いた参考書に溜め息をぶつけた。どうして入学出来たのか、そんなことはヨルドが聞きたい。彼女自身も「何の間違いか」と思わずにはいられなかった。

「追試の課題?」

 リドゥンが本から顔を上げずに問う。ヨルドは机に突っ伏した。

「そう。五つの元素を混ぜて、物質化するの。出来っこないって……」

「五つ?」

「そう!それなんだよ!」

 ヨルドは勢い良く起き上がる。

「四大元素の扱いしか知らないのに、追試が何で五つかなあ。おかしいと思わない?」

「面白そうじゃん」

「秀才の感想ってこれだから……」

「馬鹿の感想もそんなもんだな」

 ヨルドはじっとりとリドゥンを見上げる。

「きつい言い方。私はいいけど、他の人だったら怒るよ」

 リドゥンはここでようやく本から顔を上げた。

「いたなあ、そういやそんな奴」

「喧嘩したの!?」

 勢い良く起き上がり、ヨルドは顔に期待を込めて聞く。すると、リドゥンはあっさりと「負けた」と言った。

「……なんでさ」

「そりゃ、魔法使えば俺だって勝てるよ。でも喧嘩に魔法を使うのは違法。学生の身分でそれは無理」

「じゃあ、普通に喧嘩したの?」

「喧嘩弱いから適当に逃げてた。で、途中で見つかって袋叩き」

「……なんだよそれ、多人数だったの?」

「俺、対五人」

「そんなの、ずるい」

「なんで。頭で勝てないから、腕っ節で勝負しに来たんだろ。俺の頭が、あの馬鹿五人分しかないとか思われるのは腹立つけどよ」

「屁理屈じゃん……」

「そんな屁理屈もこねられないおつむなら、とっととここから出て行くこった。学都に馬鹿は必要ない」

「……」

 リドゥンに味方したつもりが、思わぬところで返り討ちにあった気分だった。これが他人なら、ただではすまない。幼い頃からリドゥンの毒舌に付き合わされてきたヨルドは、溜め息をつくだけだった。

「……本当だよねえ。なんで私なんかが入学出来たんだろ」

 ぽつりと呟く余韻をかき消すように、リドゥンが強い力で本を閉じた。分厚い本はばたん、と大きな音を図書室に響かせる。

 思わぬ反応にヨルドが驚いて目を丸くしていると、リドゥンはさっさと帰る支度を始めた。

「……帰るの?」

「ああ。お前、本物の馬鹿だな」

 これまでにないほどの悪意を込めて放たれた言葉には、さすがのヨルドもむっとした。

「なんだよ、その言い方は」

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