061.虹色キャンディー(1)
放課後の静かな図書館、生徒達の姿はまばらにあるだけで、大多数の生徒がテスト明けの浮かれた雰囲気も手伝って、楽しげに外を歩いていく。これから映画を見に行くとか、ケーキバイキングに行くとか、デートをするとか、そんな明るい話題を振りまいてヨルドを置いていった同級生達を、彼女は恨むまいとして目の前の参考書に集中した。
「──……万年、落第生」
「うるさい!せっかく集中しようとしてたのに!」
「それ始めて何時間だ?えー三時間?立派な集中力だなあ」
「ほっとけ。リドゥンみたいな秀才にはわからないよ、私の気持ちなんか」
「だから、こうして暇つぶしに来てるんだろ」
「楽しい?」
「楽しくない。お前が馬鹿すぎて」
ヨルドの斜め前に座ったリドゥンは、分厚い本を読みながら答えた。題名を読み取ったところで、ヨルドの頭ではどういう分野の本なのかさえ、わからない。
「なに、その本。……七年生が読むもんじゃないよね」
「うん?……ああ、これな。こないだの試験で馬鹿やって点を落としたら、学年主任に呼ばれてさ。この本読んでレポート書いたら、追試なしで成績にも下駄履かせてくれるっつうから。それで」
ヨルドはおそるおそる、黒髪の幼馴染の顔を見つめた。
「……わかるの?」
「少しずつ。お前はやめとけ。せっかくの集中力が燃え尽きるから」
リドゥンがかけた度のきつい眼鏡を奪って、捻りつぶしてやりたくなる。だが、もうお互いにいい年齢だ。魔法を習うため、最高の知識が集まるとされるこの学都に、リドゥンをして「大馬鹿」と言わせるヨルドが、何の間違いか入学を果たせてから五年。
順当に進めば今ごろ五年生だが、二年生にして留年を果たし、ヨルドはまだ四年生に止まっていた。その間に、同じに入学したリドゥンは順当どころか飛び級を果たし、ヨルドを追い越して現在は七年生に籍を置いている。
学都は九年制であり、つまるところ、リドゥンはあと二年で卒業となるのだ。もっとも、この勢いで飛び級を繰り返せば二年も必要としないだろう。
お互いにいい年齢であり、腹立たしいことにこの幼馴染はヨルドよりも先輩ということになる。学都に入る前だったら、取っ組み合いの大喧嘩でもして、リドゥンに勝つことは出来たが、魔法を覚えて尚且つ先輩となった今のリドゥンにヨルドが敵う見込みは、ゼロ以下と言ってもいい。
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