060.召し上がれ(8)
「何をだらだら、ここで話してるのよ。あなたがワインを用意するからって、こっちはそのつもりで準備していたのに、一向に来る気配がないじゃない。お陰で乾杯も出来やしない」
ワイン、と呟いて耀は鞄を持ち上げた。
「……お前、そのつもりだったのか」
じっとりと睨みつけると、ヴェルポーリオは相変わらずの暢気な笑顔を向ける。
「せっかくグランマがお目覚めなんだから、特別なものを用意しようと思ってね。いやあ、旧交を暖めておこうと思ったら、もうそんな時間かあ」
「とっくに過ぎてるわよ。アルファリオがもう少し待とうなんて言うから」
「そんなこと言ったって、ヴェルポーリオは嘘はつかないもの」
「嘘はつかなくても時間にはルーズなのよ、この男は」
「名言だな。まあ、そのへんにしておけアルフィーリア。ナイリティリアがお前の剣幕にびっくりしてるぞ」
ガルベリオが場をとりなすように言うと、確かに、ナイリティリアは目を丸くしてアルフィーリアを見ていた。彼女たちは立場は同じでも、全くの対極のような存在である。すると、今までの喧嘩腰はどこへやら、アルフィーリアはにっこりと人を魅了するように笑って、上品に会釈した。
「初めまして。アルファリオの専任の、アルフィーリアです。あなたが噂の聖女さまね。嬉しいわ、友達が出来て。なにせ、このへんの連中ときたらいつまでも専任を選ぼうとしない怠け者だから、ずっと寂しかったのよね」
ナイリティリアも握手を返して、どう返したものか困ったように笑う。アルフィーリアは彼女のそんな戸惑いなど気にせずに、さっと腕を組んでヴェルポーリオを睨みつけた。
「お酒は広間の壁ぞいに並べてあるから、さっさと持ってきなさい」
「今、持って行けばいいじゃない」
「女の子にそんな重たいものを持たせる気なの?」
「はいはい」
アルフィーリアはアルファリオを引き連れて、そしてナイリティリアも連れて広間へ戻って行った。大事なパートナーを連れて行かれたナーティオも、仕方がないという風にすごすごとついていく。
そんな三人の後姿を見ながら、ガルベリオは苦笑と共に溜め息をもらした。
「相変わらず、歯に絹着せないねえ、あのお嬢さんは。清々しいと言えばそうだけど。じゃあ、これ以上怒られる前に、そちらのワインを届けに行くか」
「私は先に行っている」
そう言うや否や、イーレイリオは体を霧に変えて、さっと広間に入っていった。その後をゆっくりと歩いてついていき、広間へ入る。人いきれと、グランマが目覚めることによる興奮による熱気が広間を席巻していた。立食形式のテーブルがいくつも点在し、その上には豪勢な料理が並ぶ。どうせ食べても意味はないのだが、見た目の華やかさの問題だ、と誰かが言っていた。
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