073.省エネ(2)
「はい!」
「ところで運び屋」
「はい、何でしょう」
「電球というのは、暗くなれば点くものだとぼくは思っていたんだが」
「そうですねえ。僕もそういうものだと思いますよ」
「え、電球ってそういうものですよね?明かりを灯すものですよね?」
「──点かないな」
三人の影が長く伸びる。庭に夜の影が見え始めた。
「まあ設置したのがついさっきですから。太陽光を吸収しようにも、する暇もなかったんでしょう」
「省エネとは随分時間を要するものなんだな」
「そうですよ。実は手間もかかるんです」
「そんな手間をかけるより、お前の持ってくるオイルランプを使った方が早いと思うのは、下世話というものだろうか」
「頼りにしてもらって光栄です」
「うむ。あの光は柔らかくて好きだ」
「私も好きです」
珍しく、神さまは誰にもわからないほど微かに笑う。マキはにこやかに笑った。
「では期待にお応えして、運び屋謹製のランプを持って参りましょう」
「それじゃあ、戻りますか?神さま」
「そうだな。──なるほど、これも省エネというやつだろうか」
「そうですか?あ、でもそうかもしれませんね。私たちは私たちの体力を今日、節約したんですから」
「ということはつまり、あの電球そのものが省エネの大役を担ったというわけか」
「三人で電球を見つめてなければ、出来なかったことですもんね。凄いです」
「うむ。この庭には必要ないと思っていたが、一つぐらいは置いてもいいかもしれないな」
「良かったですね、神さま」
「運び屋には感謝しないといけないな。……だが、運び屋にも見える感謝とは何をすればいいのだろうか」
「ありがとう、って気持ちが大事なんですよ」
「それは見える感謝なのか?」
「目には見えませんけど、感じ取ることは出来ます。そっちの方が貰った側はとっても嬉しいんですよ」
「なるほど。それなら、ありがとうと思うことにしよう。これは省エネか?」
「これは省エネじゃありませんよ。言葉や形にあえてしないことは思いやりともいうんです」
「……色んな言葉があるものだ」
のんびりと暗い茂みの中に入っていく二人の姿を、やはり暗いままの電球が見送っていた。
終り
- 137 -
[*前] | [次#]
[表紙へ]
1/2/3/4/5/6/7/8
0.お品書きへ
9.サイトトップへ