071.じゃんけん(1)


「じゃーんけーん……」

 ぽい、と掛け声と共に三つの手が出る。全てグーだった。

「あああ、これで通算十回目……」

「せっかく焼いた芋が冷めそうですよ、神さま」

「ここはいっそ、等分に分けた方が賢明じゃないか?」

「これは俺の芋!」

「……と、リョウくんが主張するものだから、いつまで経っても僕たちは芋にありつけないわけです」

「ネコババしようとしたのはそっちだろ!!」

「猫にもババにもならないぞ、ぼくは」

「あんたは出てくんな!ややこしい!」

 わかった、と言って、神さまと呼ばれた少年は大人しく口をつぐむ。艶やかな緑色の髪を肩で切りそろえ、大きな瞳は髪と同じ色を落としている。焼けた芋一つでじゃんけんをしている三人の中で、一番年少に見えた。

 リョウという少年は神さまよりもいくぶん年上だが、まだ未成年である。黒髪を短く切り、日に焼けた肌と、顔から体から所構わず見える傷はこれまでどういう生き方をしてきたのかということを見せ付けていた。一つの焼き芋を前に頑なになるのも、彼が生きた世界を思えば仕方のないことである。

 そして、そんな二人のやりとりにのらりくらりと付き合っているのが、亜麻色の髪を持つ青年だった。仕事柄、彼はその職業名で呼ばれることが多く、運び屋と言えば通じる。本名もあるにはあるのだが、運び屋自身も「忘れた」と言って話さないのでそのままになっていた。

 彼が運ぶのは食糧、医療品、武器から服、ペットから情報まで、とにかく運べるものなら何でも運ぶ。

 それは、壊れた世界の中でも同じだった。ただし、運べるもののリストに「人間」という言葉を足して。

 ある日突然、世界は簡単に壊れてしまった。これはどういう戦争なのか人々が斟酌する暇も与えず、坂道を転げ落ちるように呆気なく、あっという間に日常は崩壊した。

 自然災害に疫病、そこへ来て情報の錯綜が疑念を呼び、呼び起こされた疑念は絶望の中にあって狂気に変わった。

 世界が壊れるのに、砲声を上げたのは人間ではなかった。ただ、坂道を転がり落ちるだけの力を与えたのが人間だった。人間がしたことなど本当に小さなことだったのにも関わらず、世界は加速度的に壊れ、そして今の世界が出来上がる。

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