070.カラクリ(4)
リドゥンは鼻で笑った。
「馬鹿を馬鹿にするのは当たり前だろ。本当のことなんだから」
「本当にいちいち癇に障ることを……」
「とりあえず癇癪が治ったなら、こっちの傷も治してくれって。本気で痛む」
納得したのかどうかはわからないが、ヨルドは渋々といった風にリドゥンの赤くなった頬に手をあてた。喧嘩には幾度となく合っているが、考えてみればヨルドの治癒を必要とするほどのは久しぶりである。おそらく、学都に入ってすぐの時以来。
──俺のより小さいや。
飛び級で学年を追い越していったリドゥンだが、実年齢はヨルドよりも一歳下である。だからか、幼い頃はヨルドが体の小さなリドゥンをよく守っていた。いじめっ子から、野良犬から、怪我から、とにかくありとあらゆるものから。
姉のつもりだったのかもしれない。だが、守られるたびに恥ずかしさと、今度は自分が守ってやろうという意識が育っていった。自分の頭脳がその目標を助けるのなら、とことん極めてやる。そしていつか、ヨルドを守る。
成長期を経て、リドゥンが思う以上にヨルドの体は小柄に、そしてリドゥンの体はたくましく成長していた。昔なら頬を覆うほどに大きく感じたヨルドの手が、今は小さい。
「……何笑ってるんだよ、気持ち悪い」
ヨルドが不審そうな声を向ける。その手から暖かな風が吹き寄せ、頬を包み込んだ。
──手紙のこと、気にしてたな。
ということは、と考える。
「──……お前、学都辞めるなよ。学都で一番、お前の魔法が効く」
「お世辞を言わなくても辞めないよ。今度は進級出来そうだし」
リドゥンは小さく苦笑した。
「良かった」
二人の心のカラクリが、これからの命題。
終り
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