071.じゃんけん(2)


 廃墟が闇を作り、壊れた道路が人の心も断絶する。その中で親を失った子供たちは孤児として生きるための方法を生み出し、その中には決して褒められた内容ではない方法もあった。

 だが、そうしなければ生きられなかった。

 ここはそんな世界に奇跡のように残された、小さな庭。運び屋がここを見つけた時、既に神さまはここに住んでいた。

 どうしたの、と聞いたら、飽きた、と言う。

──大きくなりすぎた世界に、飽きてしまった。

 以来、運び屋は世話役も兼ねて、ここへ人を連れてくるようになった。その人選は子供から大人まで幅広く、時には犬猫の類を連れて来ることもある。どうしてそれを選ぶのかと聞かれたら、これがいいと思ったから、としか言いようがない。完全な直感だった。

 だが、運び屋がそうして連れてくると、彼らは決まって、いつの日か庭を出て行く。連れてこられた当初はどう足掻いても逃げ出せなかったものを、ある日、ひょっこり消えているのだ。

 どうしたの、と神さまに聞くと、出て行った、と言う。

 その繰り返しの中で、リョウは久々の長期滞在者だった。今日に入っておよそ三ヶ月目。かなり長い方に入る。それまで生きてきた世界に比べれば、生きやすい場所だとは思うが、リョウ自身は出たくてたまらないという顔を崩したことはなかった。

「……あーもっかい。もっかいじゃんけんだ」

「また、あいこになる気がするなあ」

「こんっっっな草ぼうぼうの庭で、よく芋を見つけられたって自分で自分を褒めたいところだよ!それを横取りしようってのか、神さまはよ!」

「ここは、ぼくの庭なんだが」

「庭の所有権は神さまのもので、庭からの収穫物も神さまのもの。道理にはかなってますね」

「道理で人の努力をチャラにするな」

 確かに、リョウの努力を無碍に出来ないほどに、庭は荒れていた。木も草も花も伸び放題、あたり構わず生えているために、あるはずの屋敷も見えない。実は倉庫や噴水もあるらしいが、どれも草木の中に遭難中である。その中で、食物を見つけ出したのは奇跡的だった。

「まあ、リョウくんは成長期だからここの食事じゃ足りないかもねえ」

「こいつってば、ジジイみたいな量しか食わねえんだぞ。それを健康のためとかのたまって、俺にも押し付けるんだからたまったもんじゃねえっての」

「そのお陰で、こうして元気に喚くことが出来るんじゃないか。ぼくは感謝されるべきだと思うんだが」

「人の情けを買う目的で、子供の姿を取ってる奴が何を言う。本気で怒るぞ、こら」

「なんだ、今までのは本気じゃなかったのか」

「お前の首一つ折るぐらい、訳ねえっての」

「そうか、それは残念だな。ぼくの首の価値は高いらしいから、誰かにくれてやるほど簡単なものじゃない。従って、ぼくはお前の本気とやらを試すことが出来ない」

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