066.非常口の向こう(1)


 学都には知識の徒となるべく喜んで入る者と、己の履歴に箔をつけるために入る者と、あまりの素行の悪さに親が大金を積んで入る者の三種類の生徒がいる。

 前者の二種類については説明もいらない。それが学都の表の顔だからだ。だが、後者の一種類については、いささかの説明を要する。これは学都の裏の顔だからだった。

 素行不良で他の学校を退学となった者の中で、金銭面に余裕のある者は必然的に学都へ入れられる。完全なる寮制ではないが、そんな形で入学した生徒が易々と学都の外へ出られるはずもなく、彼らは全て寮に入ることを義務付けられ、学都から外の社会への自由な出入りを禁じられていた。その代わり、学都の中では外の社会よりも自由が認められる。彼らを縛るのは学都の規則のみで、どう行動しようと、授業を受けて試験に受かり、進級を続ければいいのだ。

 ただし、素行不良で放り込まれた生徒が、そう簡単に学都の試験を突破出来るはずもない。そして卒業出来ないのだから、学都はそういった生徒を親元へ帰すことも出来るのだが、当の親が子供を持て余して学都に入れたのだ。簡単に引き取るはずもなく、行き場をなくした子供達は学都の片隅で生きるようになる。しかし、子供の教育費だけは年々かかるのだから、用向きのない金だけが学都に溜まるのだった。金が溜まることに文句を言う人間はいない。

 もちろん、中には心を入れ替えて勉学に励む者もいる。全てが全てそういう道筋を辿るわけではないが、中にはそういう道筋を知った上で、子供を「素行不良」として学都に入れる者もいた。

 両親を失い、遺産の相続人である子供を遠ざけて、親族間だけで遺産相続を済ませてしまう場合や、その逆として避難措置のように緊急に入れる場合もある。その他にも様々な背景を背負った子供がいるが、「素行不良」とされる理由などは、いくらでもでっち上げることが出来たし、学都もまた、彼らの背景について言及するようなことはしなかった。

 学都は学びの都と記すだけあって、学都だけで独立した町のような存在だ。その中ではその中でのルールというものがあり、そのルールへ外部が干渉することは出来ない。転じて、学都もまた、必要以上に外部へ干渉することはせず、それは両者の間に横たわる暗黙の了解だった。学都が外部に向けてただ一つ要求するのは、学問を究めるだけの能力と資金を持つことである。そして、その二つを備えた者ならばどんな者にでも、門戸を開いた。

 例え犯罪者であっても、その姿勢は変わらない。

「……」

 木立の間にぽっかり生まれた空間から、空に向けて煙草の白い煙が吐き出される。ツァリはその跡をぼんやりと見ていた。

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