063.かごめかごめ(3)


「それでパロルが寄るなって言ったのか?」

「……だからさ。人の話聞いてる?頭の中の伝言ゲーム、上手くいってる?」

「パロルが好きかどうかっていうことだろ」

「めんどくさいなあ……」

 イードはしばらく宙に視線をさ迷わせたが、やがて思い至ったように膝を叩いた。

「ああじゃあ、そうだ。それなら、パロルが誰かにあててラブレターを書いてますって聞いたら、どう思う?」

 サジェインは一瞬だけ答えに詰まった後、妙な顔をして唸った。

 多分、それはパロルにとって喜ばしいことで、自分も応援すべきことなのかもしれない。だが、どうしてか心の底から喜べなかった。

 心中で沸き起こるわだかまりに、どう名をつけたものかサジェインは本当に困った。

 すぐに返ってこない答えにイードは嘆息し、苦笑を向ける。

「それが多分、恋だよ」

「……嘘だろ」

「じゃあ諸手を挙げて喜べる?喜べないから答えられないんだろ。どうしても嘘だと思うなら、パロルに会って確かめればいい。そしたら答えがわかる」

 イードは腕時計を見た。

「パロルは今日から実習期間に入るって、前言ってなかったっけ?午前中は説明会だから、今から行けば間に合うかもよ」

 時刻は昼の十二時をさしている。始めは半信半疑だったサジェインだったが、イードに促されて、しぶしぶ講堂を出た。次の講義までには充分に時間がある。

 説明会は大講堂で行われる。サジェインはそれもしっかり知っていたし、説明会を終えてからパロルがどういう道を選んで帰るかも、サジェインには容易に想像がついた。人混みの中にいるのを苦手とする彼女なら、大講堂が吐き出す多くの生徒達の波から逃れるようにして、静かな中庭を通って正門に向かうに違いない。

 校舎の中から大講堂へ向かうと、静かだった外に生徒達の声が満ち始めた。どうやら説明会が終わったらしい。サジェインは足を速めて中庭に向かった。

 サジェインがいた講堂から、中庭まではさほど時間がかからない。教授や生徒達の邪魔がなければ、更に早く着くことが可能だ。だから、今回も早く着くことが出来、中庭に出ようとしたところでパロルの姿を認め──彼女がリドゥンに何かを渡している場面を見る羽目となった。

 いつもなら、爆発したように声を荒げてリドゥンを罵倒しただろう。だが、どういうわけかサジェインは、思わず物陰に隠れてしまった。背中に冷たい壁の感触を感じながら、どうして自分がこんな行動を取ったのか疑問に思う。まるで何かから逃げているような、恐怖感があった。

 いったい、何がそんなに恐いんだ。

 耳を済ませてみても、二人の会話は聞こえない。先刻、目にした場面を思い出そうとするが、パロルの手には白い紙みたいな物が握られていなかったか。

──ああじゃあ、そうだ。

 講堂で、イードが出した例が耳に蘇った。

──それなら、パロルが誰かにあててラブレターを書いてますって聞いたら、どう思う?

 サジェインは壁に背中を押し付けたまま、ずるずると座り込んだ。

 幼い頃、パロルと遊んだ「かごめかごめ」の歌を思い出す。あの歌は一日の終わり、別れの歌でもあった。

 沢山遊んできたパロルの小さな手が、そっと、サジェインから離れるのを感じていた。



終り

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