エダの花火

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「覆面作家企画6」参加作品(Aブロック・A05)



 故郷は僕が生まれた時からずっと戦争をしている。
 太古と言えないほど昔ではないにしろ、近世とも言えないほどの昔。少なくとも、僕が生まれた時は既に戦争の只中にあった。
 ともあれ、故郷の戦争の歴史は長い。寝物語に使われる上、学校の授業でも扱われる。それも幼少の頃からすり込まれるので、もはや算数や国語と同じレベルの身近さであり、もちろん定期テストも存在する。だが、成績における戦争の授業の配点は極めて低いのだ。学生の間は一夜漬けのお供であった。
 遠くの国では人を殺し、国を蹂躙することを戦争と呼ぶそうだが、ここは違う。少なくとも僕が生まれてこのかた大規模な殺戮行為はなく、住み慣れた町が壊れたこともない。大変ありがたいことに学校が壊れたこともないのだが、夢想の中では何度か破壊させてもらった。
 市場も古い歴史を持ち、その近くにある病院はご老体たちの憩いの場となっている。博物館、図書館、美術館など、ついこの前は音楽堂を改築したところで、こけら落としを行ったという手紙を母親から貰った。
 故郷の文化水準は高い。だからこの戦争なのだろうかと思う事がある。
 繰り返すが、故郷では僕が生まれてからこのかた、戦争が途切れたことはない。一か月に一回、必ず月末に行われる。
 武器を使わず、国も壊さない。
 なぜなら、この辺り一帯の戦争は花火によって行われるからだ。
 魔法使いと呼ばれる人々が花火師になり、花火を作る。実際、彼らの仕事にはいくつか人知の及ばぬところがある。ゆえに、彼らの花火は通常とは材料が異なった。
 その材料とは人間である。
 魂の美しさ、命の輝き等々、文語として語られるそれを花火に変えて花火師たちは空に打ち上げる。式典や祭の時に打ち上げられる火薬の花火と違い、多種多彩なしかけが空を彩るのだ。ちなみに、ここしばらくは鳥の鳴き声を組み込むのが流行っている。
 花火になることは誉れであり、満十五歳以上というたった一つの基準をクリアして申請すれば誰でも花火になれる。花火の美しさは内面の問題であるので、健康体かどうかは関係ない。収監されていた囚人の花火が美しかったという事例もある。
 戦争の勝敗はもちろん、花火の美しさによって決まる。評価するのは各国が抱える鑑火師(かびし)という集団であり、対戦国の花火を各国共通の基準に則って採点する。
 そこに私情が差し挟まれる余地はない。何故なら、鑑火師は対戦国同士で交換されるいわば人質のようなもので、彼らの行動は常に監視の対象にあり、有事の際にはその役割を果たすことになる。戦争中の人質が負う役割だけは、花火を戦争としていても他と変わらなかった。

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