エダの花火




 ここだけを見れば殺伐とした戦争の一場面のようでもあるが、現実は多少異なる。対戦国から送られた鑑火師たちの処遇をいかに良くするかで自国の優秀性を示し、花火の評価に多少の気持ちをつけてもらう──という内情があるかはさて置き、鑑火師たちの処遇は大抵いい。「あわよくば」といった情報による攻略の点も否めないが、基本は彼らに対する敬意から自然と現れた慣習だった。それは花火師に対する姿勢とも変わらない。
 人の命を種にして花火を打ち上げるという行為は、誉れと尊敬の中にあるものだ。
 僕は鑑火師として、それを見つめる日を続けていた。



 夜空に漂う花火の名残をエダはぼんやりと見つめていた。つい先程まで大輪の花が艶やかに染め上げていた場所には白煙が蹲り、いっかな流れて消えようとはしない。今日は戦争開始からずっとこの調子で風の到来を期待したが、期待だけで終わってしまった。
「風、出てくりゃ良かったのにな」
 同期のファロがぼやく。今回の後攻は自国であった為、前半は風がなくとも後半はと期待しても怒られはしまい。花火の輝きをぼやけさせる煙の存在は彼ら鑑火師にとっては悩みの種で、花火師たちにどうにか出来ないものかと幾度となく頼んだが、すげなく返されること果てしない。自分たちの魔法は自然には干渉出来ない、というのが彼らの言い分だった。
「あれだけぼやけるとなあ……」
 鉛筆で頭をかくファロの採点票には沢山の走り書きがしてあったが、お世辞にも読みやすいとは言えない。お陰でカンニングされる心配がないと笑ってファロは言ったことがあるが、カンニングしたところで自身の採点を変えない頑固者が鑑火師には向いていると言われる。エダは自分がそうだと自覚したことはないが、こういった職業に就いている以上、頑固者の素質はあるのだろう。
 ファロに笑って応じながら、エダは自分の採点票に記入していった。煙に隠れて上手く見えはしなかったが、花の形や色の鮮やかさ、消えるタイミングの良さ、しかけの多彩さに加えて音の轟き方など申し分ない。何よりも最後に高らかに鳴り響いたラッパの音がいい。跳ね回るようなファンファーレは今でも耳にこびりついている。故郷で同じ花火を眺めているはずの対戦国の鑑火師たちも驚いたに違いなかった。
 ふと、採点票の一画に書かれた名を見て、エダは記入する手を止めた。
「今回の種って、校長先生だったんだ」
「小学校の時の?」
 エダとファロは鑑火師になってからの付き合いである。エダは頷いた。
「物静かな人だと思ったけどな……」
 花火は種となった人そのものを表すという。エダの記憶には物静かに笑う初老の男性の姿しかなかったが、それはどう引っくり返ってもあのファンファーレと繋がらない。

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