aereo;3──ottavo


「まったく、ミワが乗るつもりで調整してたのに」
「悪い」
「お偉方の頭にでも撃ってやれ」
「空砲だよ」
「知ってる。だからイラついてるんだ」
 式典のオープニングは滞りなく終わり、勲章持ちの話も長閑かな子守唄ぐらいに聞けた。今は式典のメインに備えて、格納庫に移動している。遠くに色んな音楽が聞こえた。
「やかましいったらありゃしない」
 戦闘機を牽引して滑走路まで運べるようにしながら、タカナワは言う。
「そうかな」
「機嫌のいい奴は別だな。ほら、乗れ」
 牽引車に乗り込み、助手席を叩く。
「格納庫の表にまで出してくれたら、後は勝手に飛ぶのに」
「それは表の連中に言うことだな」
 牽引車に揺られて格納庫を出た途端、音が爆発する。
 事務棟の前に厚い人垣、やけに陽気なファンファーレ。今日は一体、何の集まりだったっけ。
──でも、どうでもいいか、そんなこと。
 滑走路には先に新機体が出ていた。主翼にミワが乗っている。今日はミワと飛ぶ、それだけだ。
「ミワの機体は舵が効きにくい」
 牽引のワイヤーを解いて車を横につけ、そこから主翼に飛び乗る。コックピットに入ったアヤセに、タカナワは注意した。
「どうして?」
「あいつの反射神経は化け物並みだからだ。普通だと舵が効きすぎて、逆に危ない」
「覚えとく」
「それと、お前のよりは軽いから気をつけとけ。エンジンは同じだが、機体そのものの性能が違う。アクロバットといっても気を抜くな」
「わかった。珍しいね、心配して」
「模擬戦もやるみたいだからな」
 一つ息を吐く。
「調子にのって、死ぬなよ。必ず戻ってこい」
「もし墜ちるなら、ここにだけは墜ちないよ」
 ベルトを締めるのを手伝ってからタカナワは降りた。
 キャノピを閉める。音楽が閉ざされた。コックピットの中の空気はまだ暖かいが、空に上ればすぐに冷えるだろう。その時を思うと、楽しみで仕方ない。
 さあ、これからだ。誰にも邪魔されない、最高の時間が始まる。


fin

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