aereo;3──sesto


 透き通った朝だった。重たい地上で一番軽い空気が吸える。アヤセは走り込みながら、その軽さを味わった。空には敵わないけれど、今の自分はこれで満足。
 少しずつスピードを落として格納庫に向かう。アヤセの機体に向き合っていたタカナワと話す頃には、息も整っていた。
「上機嫌だな」
「そうかな」
 そうかもしれない。だって、今日はミワと飛べる。戦えるなら本望だが、贅沢は言えない。
「走ってきたのか?」
「四時間後には飛ぶから。いつもとは違うけど、体を動かしておきたい」
 タカナワはちらりとアヤセを見てから、格納庫の外を見た。
「アクロバット日和だ」
「なにそれ」
 アヤセは自分が少しだけ笑ったように感じた。タカナワも笑って返したから、きっと笑顔だったに違いない。なるほど、確かに上機嫌だ。
「でも、今来ても意味ないぞ。ミーティングが終わったらまた来い。テスト飛行の許可は取っといた」
「ありがとう」
 格納庫から出る頃には、皆が動き出す気配がした。そのうち、沢山の勲章を胸に抱えた人間が大挙してやって来る。その前にもう一度だけ走り込んで、シャワーでも浴びておこう。何でも一人でやる方が気持ちがいい。
 そんな自分にパイロットは天職だ。
 人に見せるための飛行は心底嫌いだが、今日は別にいい。許してやる。
 今日の空は、自分とミワだけのものだから。


fin

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