aereo;3──primo


「なに、もう行ったの?ミワってば」
「みたい」
 煙草を手に、整備士姿のタカナワが隣に並ぶ。休憩時間の今は、白いつなぎの前をだらしなく開けていた。そこから初夏の風が吹き込むことを思えば自分も、とアヤセは自身の姿を見下ろすが、パイロットスーツを着こんだ体に隙はない。どうせ脱ぐなら一気に脱いだ方がすっきりすると思い、再び空を見上げる。
 初夏にしては澄んだ青空だった。影のはっきりした雲がぽつぽつ浮かび、のんびりと風に吹かれている。
 その空の高みを目指し、輝く点が斜めに横断していく。ミワの戦闘機だった。
「あいつちゃんと食べてんの?また痩せたっぽいけど」
「食べてると思うよ」
「他人事?」
「同じチームだからって、そこまで親しくない」
 今日にも死ぬのかもしれないのに、という言葉を飲み込んだ。整備士のタカナワにはきっとわかるまい。
 しかし、タカナワは喉の奥で笑っただけだった。その笑いが小馬鹿にしたように見えて、アヤセは軽く顔をしかめた。
「あんたにはわからないよ」
「俺もそう思うよ」
「なら聞かないでくれない」
 アヤセはいらいらし始めていた。ミワの機体はもう見えない。ここにいる理由はなくなった。
「だってお前ぐらいしか、まともに話す奴いないんだもん」
「他のメンバーも話すさ」
「機体の状態とか、戦果とかな。雑談をしたい」
「整備士は他にもいる」
「お前と話がしたかった、って言ったら?」
 ふう、と小さく息をついたアヤセは踵を返した。
「なら、もう終わりだ」
 立ち去るアヤセの背に、煙草の煙が追いすがる。この世で二番目に嫌いな匂いだった。
──早く、空に戻りたい。


fin

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