aereo;3──secondo
空を広いと言うのは素人だ、という誰かの言葉を思い出す。空を知る者は「恐ろしい」と言わねばならないらしい。広いのではなく、ただ何も無いから恐ろしいのだ。だから、早く地上に帰らねばならない。恐ろしすぎて、死ぬ前に。
そこまで思い出して、アヤセは小さく舌打ちをした。とてもではないが、賛成しかねる意見である。許しがたいとも思った。
恐ろしいなんて間違いだ。空はいつだって優しい。訪れる者を束縛せず、去る者には何のしがらみも与えない。地上にこんなに素晴らしいシステムはなかった。
恐ろしいから地上に帰るなんてとんでもない。そんなことを言う奴は臆病者で、つまり、あの言葉を吐いた奴も臆病者ということだ。
「……アルファより通達。現状空域を旋回した後、基地へ帰還する」
無線が入った。何事も起こらない空はやはり優しい。穏やかすぎてつまらないくらいだよ、と、アヤセの左手が訴えた。
そうだね、と口許で笑う。
「ベータ、応答は」
アヤセのコードネームが呼ばれる。了解とだけ答えて操縦捍を傾けた。体に微かな重力がかかる。
機体が傾く最中、風防の隅に地上が見えた。
ミワが確か、あの言葉が好きだということを思い出して、何故だか無性に腹が立った。
fin
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