第二十章 そして再び風は吹き



第二十章 そして再び風は吹き


 小さな風の流れが遊ぶようにして前髪をなで、頬をなで、そして唇に触れる。そこから伝わる彼らの声に「遊びじゃない」と注意すると、すねたようなつむじ風が足元をすくって空へと消えた。

 木の葉を伴って青空に向かう風を落胆に満ちた目で見送りながら、ヴァークは後ろで事を見守っていた弟に頭を振って見せる。

 兄の落胆ぶりをそのまま受け取った弟の気の沈み方は大きく、護衛のつもりで共に見守っていたロアーナさえも嘆息を隠せない。

──今日で約一ヶ月

 アスラードが渓流に落ちて一ヶ月ほど経つ。

 フィルミエルとの戦闘で傷ついた者は幸いにも快方へ向かっており、ハルアにいたってはどうにか歩く程度まで回復した。その他の者も回復は早く、自分の法力による治癒が役立ったことは確かであろう。

 ただ一人、ライを除いては。

 彼女が渓流に落ちた時に居合わせたザルマという女性たちや、アスラードの剣によって絶命した大男の前に座り込んでいたバーンという少年、そして少し遅れて現れたヴァークら兄弟にクト族のイルガリム──あの場にいたそれぞれが、この一ヶ月でどうにか自分なりの答えを見出そうとしている中、ライだけがひたすらに後悔に押し潰されているように見えて仕方なかった。

 事の成り行き上、現在はあの場に居合わせた全員が固まっての大所帯となっているが、その分、自分たちが手に入れられなかった情報も手に入った。「時の神子」の力の詳細、彼女を追う者、グラミリオン国境近くで起きたリファムの火事。

 バーンらは旅芸人とは言っているが、情報の細かさから言って全面的に言い分を信用していいとは思えない。芸人とは言いつつの少人数に加え、目に宿る鋭さは一般人という印象を与えなかった。アスラードとただ行動を共にしていた、というだけのヴァークらに比べたらはるかに不審が募る。

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