第二十章 そして再び風は吹き
とは言え、目の前でこうして精霊の力とやらを使われると、少年という姿に自分が惑わされているのではないかという疑心に陥った。ロアーナにすれば法力以外の力を間近にするのは殆ど初めてで、それも力が及ぶ域が自身の法力よりも格段に優れているとなれば劣等感を感じずにはいられない。
こうして一日三回、ヴァークがあらゆる精霊に頼み、アスラードの行方を捜させているものの、彼女の行方──そして彼女と共に落ちたイークの行方は一向に知れなかった。
「戻りましょう。陽が暮れるわ」
暗くなり始めた東の空を見上げ、ロアーナが促す。二人は大人しくその後ろに従った。
拠点として構えている場所に戻ると、既に火は焚かれて夕餉の支度が整いつつあった。
未だ回復の途中にあるハルアとカラゼクは横になったままだが、ジャックなどはもう体を起こしている。ライの姿は影に紛れるようにしており、一瞬、いないと思ったロアーナは安堵した。バーンたち一行が彼らと少し離れて座る間で、ザルマが鍋を覗き込んでいる。
旅芸人よろしく、料理の腕は本当にいいらしい。この一ヶ月、自然と料理はザルマかロイのどちらかが担うことになっていた。
一度だけロアーナが腕をふるったこともあるが、慣れないことはしない方がいいようだ。その後は彼女を料理から遠ざける傾向にあり、自分でも下手なことを了解しているロアーナは大人しく彼らに従うことにした。
鍋をかき混ぜるザルマがロアーナらを確認して、バーンにパンを切り分けるよう指示する。
一方で火の明かりを受けても尚、陰鬱とした表情を隠せない兄弟の落胆ぶりが周囲にも伝わり、それを払拭するかのようにジャックが声を張り上げた。
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