番外編 風来る



「貶すのならもっと辛辣な言葉でねじ伏せることも出来ますよ、陛下なら。だから、あれは単に僕をからかっただけなのだと思いますが。……それでも、陛下が僕に充分な地位と権力を与えてやるから、自分が傷つかない方法を見つけろと仰った時、この方にお仕えしようと思ったのです」
 バーンはその時の風景を想像し、苦笑した。
「王様らしい」
「それから陛下は、自分を傷つけることを厭わない人間は、他を傷つけることも厭わない人間だとも仰いました。……なんとなくですが、ご自身の事を仰っているのだなと思いました」
──ああ、それで。
 不意に、バーンは納得した。イークが未だにベリオルの墓へ向かうことが出来ない理由の一つは、これなのかもしれない。イークが厭わなかった結果が、墓の下に眠っている。そしてまだ、イークはそこから変わることが出来ないでいた。
 バーンは小さく笑う。
「あんたがそうだから、王様はあんたを信頼出来るんだよ。本当なら、何でも自分でやりたい奴なのに、それが仕事をさぼるんだろ? あんたがいて少し安心してるんじゃねえの」
 ラバルドが微かに振り返った。
「でも過度に信頼されるのも嫌いなんだろうな」
 どこまでイークはラバルドに話したのだろうか。
 自分が人とは違う時間に生きていること、だからこそ余計に、リファムを治める時間には限りがあること。
──いずれは消える必要のある王だ。
 一度だけ、イークがそう呟いていたことを思い出した。
「自分だけに頼らない人間が欲しいんだろ。適度に反感でも持ってくれた方が応えは多そうだしな。その感じだと、あんた王様も嫌いだったんじゃねえの」
 ラバルドはぐ、と言葉につまり、気まずそうな顔になって前を向いた。
 そういうところはきっと、ベリオルに似ている。
 だが、この男は「そういうところ」に飲み込まれないと、イークは賭けたのかもしれなかった。
「……まあ小言なり文句なり言いながら、王様のこと見てやれ。あれで結構打たれ弱いみたいだから」
 ラバルドは気まずそうな顔に、少々不安げな色を混ぜた笑みを映した。
「努力します」
 二人は城を出て、裏門へと他愛ない雑談をしながら歩く。そして裏門の鍵をラバルドが開け、バーンが出たところで、ラバルドはずっと手に持っていた紙袋を渡した。
「陛下からアスラード様にと」
 受け取った紙袋の中を見ると、小さな包みの隣に穏やかな色合いをした髪留めが入っていた。
「……意外と打たれ強いかも、あの王様」
「転んでもただでは起きませんからねえ……」
 しみじみ呟くラバルドには思い当たることがたくさんあるのだろう。それには言及せず、バーンは髪留めの隣の包みを示した。


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