終章 夜明け



 それは多分、多くの人を傷つけることになるだろうけど。

 時々に見える未来が誰かの涙を映す。その中に見覚えのある顔も映りこみ──そして自らが守った少女が泣く姿が見えた時は、しばらく瞼の裏に焼きついて離れなかった。

 自分が投じた一滴は、過去に関わりのあった全ての者を傷つけ、そしておそらくは壊すであろうことは想像に難くない。

 全ては己の願いの為。

 ただ貪欲に未来を見続け、現在にも、己が見た未来にすらも何も出来ない自分を──そして未来に生きるであろう彼らを解き放つ為。

 その為に、ヘイルソンと決別した。

 その為に、カラゼクとリミオスに呪いを与えた。

 この大きな世界に飲まれようとする彼らに可能性を見せたかったのだ。だから、あの神書は白紙の結末を迎える。やがてオリジナルを見るであろう誰かに、自分や世界の可能性を見て欲しいからだった。

 何ものにも捕われず、己が手で生きる力を得ることが出来るように。その思いを前にして、ただ未来を見る己の存在は邪魔以外の何ものでもない。

 過ぎた願いだとはわかっている。自分が傷つけた者たちの存在を思うと胸が痛み、アルフィニオスは眉をひそめた。

 それでも、願わずにはいられない。

 まどろむ世界を目覚めさせる、誰もが目にすることの出来る夜明けを。

──すまない。

 アルフィニオスは何度目かに心の内で謝り、この夜空の下で眠っているであろう少女のことを思った。

──私は君を苦しめることになる。君には沢山のことを与えてもらったのに、私から与えられるものは痛みばかりと、ごく小さなものだけだ。

 でも、と冷たくなった手を握り締める。

──君ならこの小さな贈り物を、とても大きなものに変えて未来へ渡すことが出来る。

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