終章 夜明け



 オッドは小さく溜め息をついた。

「未来のわしはわからんがの、今のわしはお前に約束しよう。あの娘が『神子』として目覚め、再びここへ来た日には力になると」

「大丈夫だ。昔も今も、これからもお前は変わらない」

「わかっておるよ」

 静かな声に振り向いたアルフィニオスへオッドは笑ってみせる。

「わしは変わらない。お前も変わらないと思っておったが、独りよがりな考えだったようだな」

 ここで初めて、アルフィニオスが困ったような笑みを浮かべた。

「……すまない」

「お前に謝られると、後で何があるかわからんの。大人しく笑うだけにしておけ」

 言いながらオッドは立ち上がる。その姿は過去に見た時よりも大分、若返りが進んでいた。おそらく、アズレリオドスがオッドに再び会う時には更に若返りが進んでいることだろう。

──その時、お前はやはり笑ってくれるだろうな。

 人の行く末は見えても、感情まで見ることは叶わない。

 あらゆる力を与えられても尚、得ることの叶わなかった力だった。

「何か暖かい物を持ってくる。その様子だとまだ眠るつもりはないだろう」

「……ありがとう、オッド」

 感謝の言葉を呟くアルフィニオスに対し、オッドは肩をすくめてみせて退室した。

 暗闇の中に吸い込まれていく背中を見送ると、アルフィニオスは再び外へと視線を転じる。見慣れた人々には面白みのない風景だろうが、こうして数秒、目を離した隙にも世界は変化を遂げているものだ。それが大きければ大きいほど人は気付き、小さければ小さいほど人は気付かない。

 今、目の前で起きた変化はごく小さなものだろう。今を生きる人々からすれば取るに足らない、目を向ける必要もないほど小さい。

──でも、ご覧。

 小さな一滴は大きな波紋を生み出すのだ。そして波紋は更に波を呼び起こし、大きな変化が来たことを人へ告げる。その一滴を、今、アルフィニオスは投じたことを感じた。

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