終章 夜明け



 アルフィニオスはふわりと笑い、ぼんやりと顔を覗かせる月を見上げた。

 月が照らす夜は深くなるばかりで、夜明けにはまだ時間がある。

 それまで体がもつと思ったのだが、アズレリオドスを助け出した際、既に自分の体は病魔に冒されていた。ここで果てることを選んでから何の策も講じずに過ごしてきたわけだが、とうとう残り時間を使い果たしたらしい。

 夜明けまではもたないだろう。

 段々と帳を下ろしてくる強い睡魔に瞼を重くしつつ、アルフィニオスは空を見上げた。冷たい風が、病によって艶を失った黒髪を揺らす。

──小さなアズレリオドス。私の大事な夕陽。きっと君は、全てのものを夜明けの時に導くことが出来るだろう。

 輝く夕陽を経て世界が夜を迎えようとも、君の存在が新たな太陽を呼び覚ますことを私は知っている。

 だから、時々に休んでもいいから、決して曇らないでおくれ。

 いつか世界を目覚めさせることが出来るように。

──そして。

「……私も、その夜明けを見られるように……──」



 ふわりと、アルフィニオスの黒髪が風に膨らんだ。だが、乱れた髪を直す手は動かず、布団の上で置かれたままになっている。何かを掴むかの如く半開きになった手に残る、微かな温もりをさらうように、涼やかな風が吹きぬけた。

 風が時間の経過を知らせる中で、アルフィニオスだけがその流れから一歩退く。

 その耳に、そう遠くない未来、暁の頃を迎えるであろう、世界の産声を聞きながら。





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