終章 夜明け
「おそらくお前が想像し得る以上。現在、数多ある可能性が導くであろう多くの未来を、私は夢や現実の合間に見続けている。……その中で、あの子は私にとって希望になる」
「……希望を見つけたが為に、己の命を落としてもか」
「元々、長すぎる命だ。無駄に生き永らえても意味はない。それを人の為に使い、人の中で死を迎えられるというのなら、本望だよ」
幼い少女を連れてここへやって来た時と同じ、瞳に宿る意志の強さは変わらない。どれだけ彼の存命を望んでも、それはアルフィニオスが望むことではないのだ。
だから彼はオッドの気持ちを知ることなく、ただアズレリオドスと名づけた少女の事だけを思って死を迎えられる。
──何ともずるい奴だな。
しかし、嫌いにはなれないから不思議だ。
多分、どこかで、オッドもアルフィニオスの気持ちを理解し始めているのだろう。
顔に浮かべていた渋面を解き、オッドは苦笑を浮かべる。
「わしは、随分とお前に迷惑をかけられそうだな」
「そうだな。それだけは保証する」
面白そうに笑ってアルフィニオスは肩をすくめてみせた。
どちらともなしに言葉を切って外の風景に見入った。オッドにとっては何の変哲もない眺めだが、アルフィニオスにはその一瞬一瞬が見逃せない輝きに満ちているという。
だから、最後の時間をこの部屋で迎えたいと言った時には素直に応じた。彼の為に出来る事ならば、何でもしてやろうと決めていた心に迷いはない。
この先、アルフィニオスが見た未来がどんな形で待ち受けていようとも、自分はそれを受け入れるだけの覚悟を持てる。オッドには確信があった。
アルフィニオスが少女を連れてやって来たあの日、幼い彼女の顔を見た瞬間に自身の行く先が見えたような気がした。それはアルフィニオスが最後の時間を段々と縮めていくにつれて確信へと変わり、今こうして言葉を交わして確固たる形を得る。
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