第二十八章 帰還
「やめろ!何やってんだお前!」
重い沈黙を破ったジャックの声に促され、バーンやイークもロアーナの元に駆け寄って弓矢を奪う。空手になった両手を掴み、前に回りこんだジャックはロアーナの顔を覗き込んで愕然とした。
あれほど自信と生気に満ち溢れていた瞳からは一切の光が失われ、美しかった髪も肌もその輝きを失っている。挙句に、口から放たれるのはただひたすらに、ジャックを罵倒する言葉のみだった。
「離してよ!あんたが役に立たないから、王は死ぬ羽目になったのよ!だから私が国を救わなくちゃ……!」
「お前、その手はどうした」
言葉を失うジャックの後ろから、イークが静かに問うた。彼女の左手はアスによって指を失ったはずだが、今目の前にある手にはしっかりと指が存在している。
ロアーナは口角を上げて笑った。
「あんたのお知り合いから貰ったのよ。いいでしょう?『神子』の力なんか借りなくても、治せるのよ」
「……ヘイルソンに付け入られたか」
「違うわ!これは私の……」
言い終えるのを待たずにジャックの拳がロアーナの腹に見舞われ、その体から力が抜ける。糸が切れたかのような彼女の体は軽く、自分の腕から抜け落ちぬようにジャックは強い力で抱き上げた。
「おれが連れて行く」
それ以上、誰かが言い募るのは許さないとばかりに踵を返し、ジャックはロアーナを抱えて玉座の間から去った。
残されたライはカラゼクに駆け寄り、イークとバーンは沈鬱な表情で顔を見合わせた。そしてバーンは後ろ髪をひかれながらもアスの元に戻り、イークも倒れるカラゼクへ視線を注ぐのみに留める。
ロアーナの弓矢の腕は良く、リミオスの心臓に向けられた矢は、代わりにカラゼクの心臓を射抜いていた。
ぴくりとも動かないカラゼクの体を仰向けにして、しかし、彼らはそこでカラゼクの呪いの姿を目の当たりにする。
「血が……」
心臓を射抜いた矢が栓になったとしても、僅かなりとも出血はあるはずだ。だが、カラゼクの服を染める血はなく、それどころか彼の胸は微かにだが上下していた。
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