第二十八章 帰還



 目に光はなく、顔色もおそろしく悪い。彼らが知るロアーナの姿はそこはなく、まるで魂が抜けたかのような生気のなさだった。

「見つけた」

 同じ言葉を繰り返す彼女に不穏なものを感じたイークが取り押さえようとすると、その隙を見逃さずにロアーナは身を沈め、一気に玉座の間へと入り込んだ。

 その手に握られたものを見て、バーンは声を張り上げる。

「……っライ!ロアーナを止めろ!」

 叫びながら自身も手を伸ばすが、駆け出したロアーナが振り向き様に足を回転させて、蹴りを見舞う。硬い軍靴による一撃は鎧を身にまとっていながらもよろめかせるには充分で、ロアーナを止めることは出来なかった。

 カラゼクとの対峙からロアーナへと視線を移したライは、ロアーナの手に弓矢が握られているのを認め、体をそちらに向けた。

「やめろ!」

 彼女が何を見て、何のために弓矢を手にしているのかがようやくわかった。

 光のない瞳にあるのはただ、憎悪のみ。

 国を奪い、王を奪い、自身の在り処を奪い、裏切ったリミオスへの深く黒い感情──それだけに突き動かされてロアーナは動いている。

 駆け出してロアーナの体を掴もうとしたが、遅かった。

 彼女は体を僅かにひねってライの手を逃れ、その隙にリミオスへ向かって更に突進を開始する。

「逃げろ!」

 振り向きざま、リミオスへ向けて声を張り上げるが、当の本人は静かにロアーナの矢を見つめるだけだった。

 再び、逃げろ、と声を張り上げた瞬間、リミオスに向けられたロアーナの矢が風を切って放たれる。

 ひゅう、と風を切る音に誰もが息を飲み、やがて訪れるであろう瞬間を待つだけとなった刹那、リミオスへ迫る矢とリミオスの間にカラゼクが入り込んだ。

 鈍い音と共に、矢は果たすはずだった使命も果たせずにカラゼクの胸を射抜き、そこで動きを止める。

 異常な静けさの中、床へ倒れこんだカラゼクを忌々しそうに見つめたロアーナは小さく舌打すると、二本目の矢をつがえた。しかし、呆然とカラゼクを見つめるリミオスに狙いを定めた時、室内に駆け込んだジャックが後ろからその手を掴む。

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