第二十七章 僕は
珍しく子供らしい部分を見て、アスは気持ちがほっとするのを覚えた。
「ジルやメルケンには私もまた会いたいよ。今度はちゃんと話したい」
「じゃあ、その時は僕らも一緒だよ」
顔をぱっと輝かせてアスを見上げる。心の荒む状況や場所にありながらも、サークのその笑顔は見ている者を和やかな気持ちにさせた。それはアスだけでなく、戦うべく城に集った皆も同じことだった。
途端に機嫌が良くなったサークを腕の中に抱え、ヴァークの駆る馬へ視線を飛ばす。すると、ヴァークが僅かにこちらを振り返り、左へ馬を寄せるよう合図した。その意とするところを図りかねている間にも、ヴァークの馬は段々と減速し、合わせるようにしてアスも速度を緩める。サークが目をしばたいて兄とアスを見比べていると、さっさと馬を降りたヴァークが自身の馬を引いてこちらにやってきた。
「何かあった?」
見たところ、ヴァークにも馬にも変調は見出せない。アスが不思議そうに問う中、ヴァークの視線はサークへと向けられていた。
「お前はここで降りて、俺の馬に乗って戻れ。俺がアスと一緒に行く」
「やだよ、僕も行く」
ヴァークの意とするところが知れて、サークは懇願する。だが、ヴァークは譲らない。
「駄目だ。これから行くのは戦場だ。お前を守るのは俺の役目だけど、戦場で完璧に守ることは出来ない。俺だって自分の力量ぐらいわきまえてる」
「僕だって。僕の知らないところで兄ちゃんが死ぬのは嫌だ」
「俺は大丈夫だから、戻れって言ってんだろ」
「どうしてさ。僕がいなかったら絶対、兄ちゃんは無茶するよ。違う?」
サークの言に、ヴァークはぐっと言葉に詰まる。図星なのだろう。
それまで言葉を挟むことも出来ずに二人のやり取りを見守っていたアスだが、ここでようやく口を出す機会を得る。
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