第二十七章 僕は
第二十七章 僕は
目の前で馬を駆るヴァークの背を見つめ、サークが同じく馬を駆るアスの腕の中でぽつりと呟く。
「……この戦争が終わったらさ、姉ちゃんってライと結婚するの?」
「……は?」
あまりにも唐突に尋ねられた質問は、アスの想像を遥かに上回るものだった。悪意がないだけ余計に言葉が返しづらく、またそんな事が全く考えになかった分、戸惑いを隠せない。
アスの戸惑いを知ったサークはその顔を見上げ、慌てて取り繕った。
「いや、あのね、今まで皆で楽しかったから、また三人で旅を続けられたらなって思って。その時はライも誘うよ、勿論。でも姉ちゃんがもし結婚するんだったら、無理かなって」
「そこまで考える余裕はなかったなあ……」
『時の神子』にまつわる一連の事が全て終わった後など考えてもみなかったが、戦場を目前にして、それもまた、やがて来る現実なのだと知る。しかし現実とは思っても、「結婚」の二文字が自分に縁のある事とは到底思えなかった。教会にいた時、自分はそういうものを望んでも意味がないと思っていたが、その考えはあの時と何ら変わりはない。
ライと再び歩くことが出来る。それだけでアスは充分満足しており、それ以降の事を考えたことなどない。
にも関わらず、どうやらサークはそこまで考えていてくれたようで、アスは苦笑交じりに言った。
「でも、まず一度はジルの所に戻らないといけないんじゃないかな」
この兄弟は無断でここまで付いて来たのである。ジルもいくらかは承知しているだろうが、まさか戦争にまで関わっているとは思うまい。
サークは顔を前に戻し、そうだよね、と歯切れの悪い返事を返す。
「やっぱり、一度はお母さんに会いたいな……」
ヴァークと共にいると、どこかジルのような物言いをするところがあったが、サークもまだ子供なのだ。母親の存在は大きく、会わない間に出来る寂しさは、さすがのヴァークでも埋めようがない。
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