第二十六章 記憶



「……また考え事だな」

 隣から静かに言われ、アスは振り向いた。そこにはアスと同じく太陽の恵みを受け、椅子にゆったりと腰掛けたオッドがいた。

 静かな瞳は相変わらず心を見透かすようで、しかし、確実に彼の中で変化が起こっているのがわかる。

 いつもよりゆっくりとした口調と重い瞼、そして王城を奪還して後にオッドと会って一番に驚いたのが、その姿だった。

 今までは自分と同じかそれよりも下の年齢ぐらいの姿であったのに、一夜明けてみれば体つきが一回り小さくなっていた。

──「生まれ直し」。

 イークから教わった言葉が俄かに現実味を帯びる。

 オッドの性質を知るのはイークとアスのみで、他の者には無用の混乱を避ける為に「賢者の特質」としか話していない。いずれ、彼が長い眠りに入るということを知られたら、大きな指標の一つを失ってしまう。

「声も若返るんだな」

 身の内に巣食う不安を悟られぬよう、気丈な声で返した。

「体の全てが若化するのだから、声帯の大きさも変わる。じじいのようなしゃがれ声よりは聞こえがよかろう。……外が賑やかだの」

「ああ。バーンが集めてくれた傭兵の皆もこちらに移動してるから。それにここの兵士は皆、気持ちの良い人ばかりで助かる。やっぱり主君の影響なんだろうね」

「その割に、そなたの声は晴れぬな」

 言い当てられ、アスは苦笑した。本当に、この人には叶わない。

「ヘイルソンに『時の器』のことを言われた」

 オッドが微かに顔をこちらへ向ける。

「女の『時の神子』は『時の欠片』を以て『時の器』を生む。それがヘイルソンにとっては邪魔で、リミオスにとっては望みなんだ。……オッドはそれを知っていた?」

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