第二十六章 記憶



 驚く様子もなく、静かに耳を澄ませるオッドへ縋るような視線を送る。

 すると、オッドは小さく嘆息して「そうだ」と言った。

「知っていた、というよりも、イーク共々どこかでそうではないかと察しがついていた程度だがね」

「どうして言わなかったんだ」

「……確証が持てなかった。ヘイルソンの狙いもわからぬ以上、無闇にそなたを混乱させて困らせたくはなかったが……」

 言いながらちらりとアスを見て、その顔に微笑とも苦笑ともとれぬ笑みを浮かべる。

「若さとは恐ろしいな。知らぬ間に成長を遂げている」

 どこか諦めにも似た呟きにアスも小さく笑う。

「立ち止まっていられないだろう?」

 オッドは目を伏せ、何度目かの嘆息の後に緩慢な動作で手を差し出した。

「わしが持つ全ての記憶をそなたに与えよう。恐らく、貰った直後は眠りを必要とするだろうが……全てを知った上でどう動くかはそなたに任せる。この先にあるのはそなた達の未来だからの」

 静かにオッドを見つめた後にアスは頷き、手袋を外す。そして彼の傍らに跪くと、アスを見つめる銀色の瞳が柔らかな光を帯びた。

「アルフィニオスが夕陽を好きだったことは知っているかね」

 故郷で幾度となく記憶を辿って整理していたアスだが、それは未だ完全とは言えなかった。いや、と頭を振るアスの前でオッドの手が肘掛の上に乗せられる。

「彼が好きな人間の言葉に、夕陽の意で「アズレリオドス」という言葉がある。そなたの『欠片』にも刻み付けてあるだろう?」

「……それは」

 カリーニンと共にリファム王城を脱する際、この剣を貸したことがあったが、その時にカリーニンは刃の根元を注視していなかったか。

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