第二十四章 片翼



 イークの表情が一瞬だけ険しくなる。

「どうしてそう思う?」

「リファム国軍が動いたって聞いてから、ずっと嬉しそうだから。ベリオルが兵を挙げてくれるなら本望みたいな顔で。どうしてそんな顔するのかわからないけど」

 険しい顔から転じて、イークはいつもの人を食ったような笑みではなく、非常に穏やかな笑みを口許に浮かべた。

「私が先王を弑した際、先王の側近だったベリオルの一族は滅んだ。だからあれは私を殺したいほど憎んでいるはずだ」

「……それがそんなに嬉しいのかよ」

 ライが驚きつつ問うた。すると、イークはいつもの表情に戻って笑う。

「誰かの中に己を残して生きてくるような真似はしなかったものでな。私を恨むことで民の一人が生き延びるのなら、いいだろうと思った。それに、あれがいる限り、私は己の罪悪と向き合うことが出来る。ベリオルが私を殺そうと思った時こそ、私の王としての時代が終わる時だ」

 一息ついて続ける。

「まあ、それもまた一興かと楽しみにしていたんだが、まさかこんな形で仕掛けてくるとは思わなかったものでな。王城でどんな顔をして私を待っているのやら」

「……歪んでるな」

「完璧な人間もいなければ完璧な王もいない。皆、どこかで歪なものだ」

「そういう言葉を聞くと、本当にオッドと似てるよ。嫌ってるのは案外、自分に似たところを見てるからかもな。じゃ、着替えてくる」

 イークの反論を恐れてか、それとも本当に準備をしに行ったのか、言うだけ言うとライはそそくさと去っていった。

 だが、ライの心配は杞憂に終わっていたのである。さらりと言い放たれた言葉に、鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしたイークは反論することをすっかり忘れていた。

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