第二十四章 片翼



 ぽかんとした後、盛大に顔をしかめて口許を覆ったイークはアスに尋ねた。

「似ているか?」

「自覚ないの?」

 身も蓋もない回答にイークは益々顔をしかめる。

「……なんだそれは。あいつに言われたのも悔しいが……」

「ライは結構人を見るよ。今までそれが表に出てこなかったんだけど、ようやっと本調子になってきたんじゃないのかな」

 口許を覆っていた手を下ろし、大きな溜め息をつく。

「今更本調子になられてもな。随分と足の遅い奴だ」

 笑いながら、本当は速いんだ、とアスは答えてゆっくりと流れていく風景を見る。

 長閑な風景だが、その向こうで立ち上る黒煙や、段々と色濃くなっていく血と炎の匂いは否が応にも戦場の近さを思い知らせた。

 先刻までオッドに付き合い、大地に流れる時に沿って飛ばした「目」が捉えた光景が、瞼に焼き付いて離れない。

「リファムとエルダンテは一進一退ってところだね。エルダンテの北部はほぼ制圧されたけど、それから先に進めないでいる」

「グラミリオンが茶々を入れるのを忘れていないようだな」

「そのお陰で戦局が劇的に変わることもないけど。グラミリオンの攻撃でリファムの足止めがされてるから」

「皮肉なものだな。玉座に戻ったら真っ先に礼でもせねばならんか。……エルダンテは」

 アスは頭を振る。

「見えない。多分、『時の器』の影響だろうけど、私は弾かれた。だからオッドが今も探っているけど、リミオスには気付かれるだろうって。……あの人にはそんな力があるんだね」

 探るような目つきで見上げてくるアスに、イークは小さく笑った。

「『予言書』のお陰だろう。元々、それほどの力には恵まれていなかったんだ、あいつらは」

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