第十六章 対話の刻



「……っは!そうか、お前か!全くあいつは面白いものをよく残してくれるね」

 可笑しくてたまらないのだろう。腹を抱えて笑う姿は年相応に見えたが、当の笑われている相手の空気が段々と冷え込むのを感じたアスは、構えた剣を下ろすことが出来なかった。

──グラミリオンにいた。

 橋の袂にいた姿をアスは覚えていた。同時に、サークがひどく彼に怯えていたことも思い出す。

 エルダンテの者なら、今のところ敵と認識した方が良さそうだが、フィルミエルの態度はどうにも承服しかねた。

──あいつって?

 アルフィニオスのことだろうか。

「過去をとやかく言う為に来たんじゃない。『神子』を殺されては困る」

「僕も過去をとやかく言う為にここに居るわけじゃないけどね、その姿は亡霊そのものだよ、カラゼク。……なるほど、エルダンテの亡霊とは的を射ている」

 こちらに歩み寄るカラゼクの足が止まる。

「亡霊はそちらではないのか。僕の過去は既に終わったことだ」

 終わった?、と、フィルミエルはカラゼクの言葉尻を捕えて笑った。

「終わったならどうしてお前がここにいるのさ。亡霊が『時の神子』を探すなんて、安い笑劇だよ。お前の過去なんか終わっていない。こうしてここに来たことがその証明だろう?」

 新たなおもちゃを得たかのように笑う。黒髪が不吉さを伴って風に揺れていた。

「自分だけ逃げようだなんて、そんなことは僕もお前の弟も許さないと思うけどね」

 フィルミエルは腕を組み、何か面白いことを思い出したかのようにして言う。

「そうそう」

 その姿がまた、わざとらしく見え、徹底的にカラゼクを痛めつけるつもりらしい。ある意味では、三人の中で一番に残忍なのではないかと思い始めたアスの耳を、思いがけない名が突いた。

「アルフィニオスに呪われたその両目、まだ癒えてないのかな。弟も……ああ、リミオスだっけ?……彼、元気?」

 リミオス、と、あの口は言っただろうか。その真偽を問う間もなく、語尾を飾った一言についに爆発したカラゼクが、剣を腹に構えて突進する。

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