第十六章 対話の刻
その速度たるやフィルミエルに勝るとも劣らずのもので、あっという間に彼の懐に入った。銀色の髪が軌跡を作るのをただ見ていただけのアスにも、もしやという思いが過ぎった。
だが、次の瞬間、フィルミエルの右腕が優雅な動きで薙いだと思ったその時、カラゼクの体が木の葉のように吹き飛ばされて木に激突した。嫌な音と共に叩きつけられたカラゼクは、人形の如くその場に倒れこみ、木には衝撃の余り、大きな亀裂が走っている。
「カラゼク!」
体を動かすタイミングを見計らっていたライが駆け寄った。
すると、その脇から別の人影が、凄まじい勢いの風を背に受けて、木の間から飛び出す。ジャックだった。
「ぅおらぁっ!」
文字通り飛び出したジャックは風の勢いに乗ったまま、大斧を振り被ってフィルミエルに叩き込む。
完全に不意をつかれた形となったフィルミエルはそれでも、腕の付近に力による壁を作って防ぐことは出来たが、ジャックの力と風の勢いに負けて吹き飛ばされる。しかし、途中で体勢を立て直して見事に地面へ着地した姿に、あまりダメージは期待出来なかった。
「協調性は大事にしないとなあ」
斧を肩にとんとん、と当てて言い放つ。ライがカラゼクを抱き起こす横ではロアーナがカラゼクを覗き込み、ハルアが剣を抜いてジャックに並ぼうというところだった。
「個人プレーの塊みたいな奴が言っても説得力ないぞ」
苦笑しつつハルアが言う。呆気に取られているアスを見て「大丈夫か」と声をかけ、ハルアの様子に気付いたジャックがアスを振り返った。
「はじめまして。とりあえずジャックって呼んでくれな。あっちの女はロアーナ。あいつの放った法力の風に乗っての大技が今のやつ。とりあえず、ここらで恩を売っとかないとな」
「ジャック」
「いいだろ。そうでもしなきゃ、あんたはエルダンテに戻りそうにないしな」
ついでに、と肩を叩いていた斧を構えて危険な笑みをひらめかせる。
「あの坊ちゃんも倒したら、少しはオレの株も上がるってもんだろ」
十六章 終
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