第十章 足跡



 不意に金髪の少年の顔が思い出され、リミオスは苦笑した。参ったな、あそこまで壊すつもりはなかったのだが。

 心の中で謝罪するでもなく、苦笑を一瞬でおさめたリミオスの顔には、既に穏やかな笑みが戻っている。勝利を確信した者の笑みでもあり、一方で達観した者の笑みのようでもあった。

「……世界はあなたが望む望まないに限らず、動き続けているのですよ」

 ぽつりと呟く。

 窓から吹き込む風は今までになく暖かくて優しい。この暖かさをもう、あれは感じ取ることが出来ないのだと思うと、少し心が安らいだ。

「今の世界を見たら、あなたはどうしますか。──アルフィニオス」


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 木漏れ日が心地よい。そう感じたのは何日ぶりだろうかと考えて、無駄なことに気付く。

 リファムの牢から逃げ出し、更にはあの小屋から逃げ出してから随分と森の中をさ迷った。旅慣れているとは言え、特殊な状況下にあっては体の中の方位磁石も狂う。ようやっとの思いで川のせせらぎの音を見つけ出したのは昨日のことだった。昨日、と言い切れるのも落ち着いて今日の日の出を目にすることが出来たからである。実際、バーンたちと離れて何日経ったのか、もうわからなくなっていた。ただ感覚として、一月近く経っているのであろうことは間違いないと見当づける。

 川で捕まえた魚を見下ろして溜め息をついた。木漏れ日を反射して輝く体は丸々として、川の豊かさを物語る。今日一日体を休め、川沿いに進めば人の営みも見えるかもしれない。そこで方向感覚を訂正し、それからどこへ向かうかを判断すればいい。

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